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2017.08.10

「画像診断」で医療現場に革新を与えるエルピクセルの野望

(左)ジャフコの沼田朋子、(右)エルピクセルの島原佑基(photograph by Toru Hiraiwa)

島原佑基が2014年に東京大学研究室のメンバーと3人で創業したエルピクセルは、ライフサイエンス領域の人工知能・画像解析ソリューションを提供する。応用範囲が広い中、現在力を入れるのは医療画像診断だ。

医療機器の高度化に伴い、医師の取り扱うデータ量が急増する現状に対し、同社の医療診断支援システムは、CTや磁気共鳴画像装置(MRI)画像に潜む病変などを自動的に検知することで医療現場に革新を与えようとしている。沼田朋子が投資部グループリーダーを担うジャフコは、16年10月に投資を実行した。


島原:ここ15年ほどで、医師の情報処理力は変わっていないのにデータ量が100倍以上もの勢いで増えています。例えば、MRI検査1回あたりの撮影枚数は、00年頃は数枚でよかったものが、現在は1000枚以上撮ることがあります。そこで我々が、現場の負担を優秀な医師のコピーたる人工知能(AI)で補うことで、より早く軽減していきたい。

その思いで16年7月に投資家の方々へ話を持ちかけた際、一番動いてくださったのが沼田さんでした。

沼田:エルピクセルは国立がん研究センターなど大手医療機関との共同研究をすでに進めており、以前から注目していました。ただ我々が迅速に動けたのは、島原さんたちの目指している世界がいつか来るという実感を持てたからです。こういった市場は、先に仕掛けた会社が結果的に強くなります。島原さんたちは若くて馬力もあるので、勝負できると直感しました。

島原:医療機関の先生方への紹介や、VC視点の提案資料など、ジャフコが40年かけて築いてきた関係性をいかしながら、泥くさく動いていただきました。投資検討段階から我々が持たない部分を補ってくれた、という実感が安心感につながり、AIや画像診断が活躍する市場を一緒に開拓していけると感じました。

我々はサブミッションとして、大学発技術系ベンチャーのロールモデルになることを掲げています。経産省のプロジェクト「始動 NextInnovator 2015」でシリコンバレーを訪れた際、大学周りの研究者がスピンアウトしてエコシステムが循環していくのも、ロールモデルがあるからだと感じました。日本の研究者はアカデミアか大企業の二者択一になりがちですが、それではもったいない。我々がよい先行事例を示したい。

沼田:25年後に振り返ったとき、「この会社があったからこの産業は変わったよね」という存在になる会社へ投資したいと考えています。世界で戦える土壌を持つ日本企業は多くありませんが、エルピクセルがいま注力している医療分野においては、人口あたりのCTやMRIの台数で日本が最も多い。つまり、医療画像を世界で一番持つ環境にあるのです。膨大なデータを持つことが、そのまま世界で勝つチャンスにつながると期待しています。

島原:19世紀は化学、20世紀は物理、21世紀はライフサイエンスの時代だと考えています。情報技術の高度化によって、膨大な情報を持つ生物を理解できる土壌が整ってきました。

iPS細胞を代表とする再生医療の実用化など、これからの“生物をつくる時代”を見据えたときに目の前で貢献できる領域が医療です。まずはこの領域に注力し、日本の進んだ仕組みを世界の医療へ標準化させれば、例えば日本と同じ医療をアフリカで受けられる“公平な医療”も実現できるでしょう。

まさに20世紀最初の「T型フォード」の誕生のように、21世紀の主たる産業を変える存在になりたいです。


島原佑基◎エルピクセル代表取締役CEO。東京大学大学院修士(生命科学)。研究テーマは人工光合成、のちに細胞小器官の画像解析とシミュレーション。グリーの事業戦略本部などを経て、2014年3月にエルピクセルを創業。17年のフォーブス「30アンダー30」アジア版において、ヘルスケア&サイエンス部門のトップに選ばれる。

沼田朋子◎ジャフコ投資部投資四グループリーダー。一橋大学経済学部卒業。2005年4月、新卒で、ベンチャーキャピタル大手のジャフコに入社後、一貫してベンチャー投資業務に従事。特にヘルスケア、テクノロジー分野への投資に注力している。主な投資先は、カウンターワークス、ココナラ、マーソ、ミライセンスなど。

文=土橋克寿

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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