日本に眠る職人技と技術力
一方、時計は田子にとって初めての取り組みとなった。田子が苦心したのは、「最先端技術を腕時計に新規搭載することによって生じる問題の解決」と言う。
田子は通信用電波や充電の機能など、一般的なアナログ時計では起こり得ない難問があったことを明かし、こう振り返る。
「日本の職人の方々が長年かけて培った技術をふんだんに取り入れることで問題をクリアすることができました。日本で開発したからこそ、最高級の質感と最新のテクノロジーを持ち合わせたコネクテッドウォッチを生み出せたと思います」
アートディレクター/デザイナー 田子學
野々上も開発時、時計の本場スイスと、エレクトロニクスの本場シリコンバレー、その両面を兼ね備えた日本の実力を感じたという。
「スイスには優秀な時計職人が大勢いますが、エレクトロニクスの高度な技術は持ち合わせていません。一方エレクトロニクスの本場シリコンバレーは、電子的な技術力はあるものの時計職人がいませんよね。しかし日本には職人の技もエレクトロニクスもあります。日本で開発する意義を改めて実感しました」と振り返った。
コネクテッドウォッチから見えるIoTの未来
昨今、アップル社をはじめ世界中の腕時計メーカーが競うようにコネクテッドウォッチの開発を進めている。しかし、多すぎる機能の理解に販売の現場は苦戦。時計業界が混乱しているのも事実だ。
売り場の選定ひとつとっても明確な答えはなく、野々上は「百貨店や家電量販店、コンセプトショップなど候補を挙げながら実験を重ねていく必要があると感じています」と直近の問題点を述べた。だが、今後コネクテッドウォッチの増加により流通網は洗練されていく見込みだという。「今までのような型にはまった売り方とは違う販売方法を見出す店舗が徐々に現れるでしょう」。
最後に田子はこう言う。
「時計のいいところは生産品でありながら一つずつ必ず手が入っているところ。腕時計業界は今後エキサイティングな世界になりそうで楽しみです」