「競争よりも共創」時代の新しいお金の使い方

Andrey_Popov / shutterstock.com


日本人が見たこともなかった「銀行」の価値について出資者を説得する株主募集布告で、栄一は下記の表現を用いました。

「銀行は大きな河のようなものだ。銀行に集まってこない金は、溝に溜まっている水やポタポタ垂れている滴と変わりない。(中略)折角人を利し国を富ませる能力があっても、その効果はあらわれない」

ポタポタ垂れている滴(しずく)は清いです。しかし、微力です。ただ、その微力な滴が方々から寄り集まってコップがいっぱいになれば、ふちからこぼれ落ちて小さな流れが生じます。その小さな流れが他の流れと一緒になれば、ちょっと大きな流れになります。このように小さな流れが合流し続ければ、いずれ力強い大河になる。

お金という資源は散らばった状態では微力です。しかし、銀行に集まれば、いずれ大河の流れとなり、国の原動力となり、経済発展を支える。この期待が、日本の資本主義の原点にある「合本主義」です。

「共感」「共助」「共創」

では、微力な存在を、勢力へと育む「足し算」「掛け算」とは何でしょうか。

まず、「共感」が必要だと思います。散らばった状態が自発的に寄り集まってくるためには共感が必要です。しかしながら、集まるだけでは、長所・短所や得意・不得意があり、事が進まない場合もあります。

だから、「共助」も必要です。お互いが不足しているところを補うのが「共助」であり、事が進み始めます。「共感」「共助」は足し算のようなもの。足し算ができれば、次に掛け算ができるはずです。

これは、「共創」です。共に創る、コ・クリーエションです。新しい存在が創られることを繰り返せば、掛け算の効果になります。

つまり、渋沢栄一が考えた合本主義とは「共感によって寄り集まり、共助によってお互いを補うことで、共創する」─。これが我が国の資本主義の原点であり、本質であります。

このように考えると、クラウドファンディングとは何でしょうか。弊社コモンズ投信のような長期投資の投資信託とは何でしょうか。

それは「今日よりも、よい明日」を希望する、“思い”を持った個々人の微力を「共感」「共助」「共創」により勢力となることを促進する「担い手」だと言えると思います。

昨今の企業経営や投資の潮流であるCSV(共有価値の創造)やESG。そして個人投資家にとっての共感、共助、共創するクラウドファンディング、長期投資の投資信託の存在。こうした世の中の動きを観測すると、シェアホルダー(株主)資本主義からステークホルダー資本主義へ。格差を生むことに無関心な競争(キョウソウ)社会より、インクルーシブな成長を目標とする共創(キョウソウ)社会へ─。そんな“ 時代の節目”を迎えていると感じています。


渋澤健◎JPモルガン、ゴールドマン・サックス、ムーア・キャピタルを経て、2001年、シブサワ・アンド・カンパニーを設立。08年にコモンズ投信を立ち上げ、会長に就任。著書に『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』『渋沢栄一 100の訓言』など。

文=渋澤 健

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事