矢都木:確かに。会社単位で責任がのしかかってきますからね。でももし何かトラブルが起きたとしても、僕は深く落ち込まないタイプです。社長はそういう仕事で、それを乗り越えるからさらに成長できると思っています。
桜井:クレームと同じですね。
矢都木:そうですね。クレームの対応が一番うまいのは、誰よりもクレームを受けている人。言われたときはつらいですが、経験値は必ず上がるので、お店にとってはビタミン剤のようなもの。だから僕は常に「いい経験をさせていただきました。ありがとうございます!」という心境でいます。
桜井:なるほど。ラッキーかアンラッキーかわかりませんが、私はまだ大きな失敗を経験していないんです。まさに今過渡期なので、これから旭酒造が変わっていけるかどうか、それが一つ目の試練だと思います。少しずつ会社を変えて、乗り越えていきたいですね。
──経営者は日頃のインプットも重要ですが、お二人はどのように感覚を磨かれていますか?
桜井:人に会うのが何よりのインプットですね。最近は経営者の方にお会いする機会も増えてきて、色々な角度から鍛えて頂き、教えて頂いています。
矢都木:旭酒造さんは、見学にいらっしゃる方もきっと大勢いますよね。国内だけでなく、海外からも。
桜井:そうですね。海外から修行に来る方もいます。ソムリエやレストランスタッフが主ですが、中には地元に帰って自分で酒蔵を作りたいと言って。おいおい、堂々とした産業スパイやなとも思いますが、日本酒を本気で学びたいなら誰だって大歓迎です。旭酒造を全く違う角度から見て、質問してくれる。その一つひとつが本当におもしろいんです。
矢都木:お客様目線は本当に大事ですよね。僕の場合は、映画を観たり、外食をしたり、とにかく外に出てインプットすることが多いです。事務所にこもらないようにルーティンワークも極力減らして、いろんなことを見たり聞いたり。ただ「入り込みすぎないように」気をつけています。
桜井:作り手側に立たない、ということですか?
矢都木:はい。ふらっと入った感覚で見るようにしているんです。そうすれば麵屋武蔵の店舗に入ったとき、お客様と同じ感覚で店舗を見回すことができる。
桜井:自然体でいれば、自社にいても刺激を受けられますからね。
矢都木:刺激といえば、ぜひ外部からチクリとしてほしいところがあるんです。他の業界から、ラーメン業界に入ってきてほしいなと。
桜井:他の業界!? 例えばIT企業がラーメン屋を開くということですか? いや、私も少し想像したことはありますが、もしアップルが酒造を始めたらめちゃくちゃ怖いですよ。業界内のライバルが伸びるよりずっと怖い。
矢都木:でも、外部だからこそ見える業界の盲点や短所があるじゃないですか。それを探して今までにない方法で解決したら、きっと業界は盛り上がりますよ。だから僕は、業界外の企業を見てインプットしているんです。これからも、旭酒造さんに学ばせていただきますよ![第4回に続く]
桜井一宏◎旭酒造代表取締役社長及び四代目蔵元。2009年まで常務取締役、その後2016年9月まで取締役副社長として海外マーケティングを担当。米国、香港、シンガポール、フランス等でのイベントやセミナーを通じて獺祭の海外売上を促進し、12年間で28倍にした。2016年10月より代表取締役社長に就任。四代目蔵元となる。
矢都木二郎◎麺屋武蔵 代表取締役社長。埼玉県生まれ。城西大学卒。大学卒業後、いったん一般企業に就職するが、24歳で独立開業を目標に麺屋武蔵に転職。以来、麺屋武蔵一筋。27歳で上野店店長に昇格。店の運営・経営を任される。2013年11月11日、先代社長からバトンを受け2代目の代表取締役社長に就任する。