クレームは会社にとって「ビタミン剤」のようなもの

麵屋武蔵の矢都木二郎社長

今や大手企業をも揺るがす深刻な事態となっている後継者問題。二代目が見つからない、創業者との間に深い亀裂が生じるなど、大勢の経営陣が頭を抱えている。

しかし飲食業界に、数多の経営者が苦悩する伝統の継承をサラリと行い、次なる挑戦を楽しんでいる2人の若き社長がいる。旭酒造の桜井一宏氏と、麵屋武蔵の矢都木二郎氏だ。“今までにないニュータイプの後継者モデル”となった2人の経営哲学を、5回の連載で読み解いていく。(第1回第2回


──社長就任後、お二人は数々の新商品をプロデュースし、ヒットに導いていますよね。お互いの商品の良さはどんなところにあると思いますか?

矢都木:旭酒造さん良さは、伝統を守りつつ時にそれを覆す挑戦をしているところです。先代の教えを大事にしながらも、そこに固執しすぎず、試行錯誤もされている。新しいことを、と言うのは簡単ですがなかなか実現できないことですよ。

桜井:私から見ると、矢都木さんのやり方も同じです。先日食べたコラボラーメン(「獺祭 酒芳るら~麺」)は、スープがほとんど酒でしたよね?

矢都木:そうです。食べた瞬間に吟醸香が広がるラーメンを目指しました。

桜井:「そんなにうちの酒を入れるの?」と驚きました。でもそこまで振り切っているから美味しいし、お客様も感動するんだと思います。私はまだそういう振り切り方ができないので、コラボしながら学ばせていただいています。

──チャレンジ精神あふれるお二人ですが、挑戦には責任がつきものですよね。経営者として、スランプや失敗、課題には、どのように向き合っていますか?

桜井:それこそ先代に聞きたかったのですが、会長は「教えるものではない。勝手に学べ」というスタンスで。今まさに、向き合い方を考えているところです。

矢都木:社長になった瞬間、急に責任が重くなりますもんね。僕も毎日張り詰めるような緊張感があります。社員だったころは麵屋武蔵の新メニューを考えていればよかったのに、社長になると雇用条件から何から、全て考えなければいけない。チャレンジの幅が広がる分、当然リスクも生じます。でも僕は、社長とはそういう仕事だと割り切っています。

桜井:矢都木さんは社長就任の打診を受けたとき、ためらいや迷いはなかったんですか?

矢都木:ないです。「きたーっ!」って感じでした(笑)。サラリーマン時代の自分は「こんな自分でありたい」という理想像とかけ離れていたんです。それでいつか自分でラーメン店を開こうと思い立ち、麵屋武蔵で修行を始めたんです。

桜井:もともと独立志向だったんですね。いつ頃から麵屋武蔵の社長を目指すようになったんですか?

矢都木:店長を任されるようになった頃ですかね。「チェンジ・チャレンジ」という先代のポリシーのおかげで、お客様のためなら商品も会社も伝統も変えていい、という大切なことに気づけたんです。ちょうどその頃、先代が身内に後継者がいないと話していたので、いつか自分が社長になれたらと。

桜井:でもいざなってみると、想像以上のプレッシャーがありませんでしたか? 例えば、社員が結婚したり、出産したりしたとき。社長になる前は心から祝福できていたんですけど、今は「この社員の家族や子どもの人生まで自分にかかってるんだな」って……。
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インタビュー=谷本有香 構成=華井ゆりな 写真=藤井さおり

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