「業界研究」より「自社研究」 旭酒造と麺屋武蔵の共通点

旭酒造の桜井一宏社長(左)、麵屋武蔵の矢都木二郎社長(右)


矢都木:そういえば桜井さん、外出するときも獺祭を持っていくって聞いたことがあります。

桜井:そうなんです。フレンチでもイタリアンでも、どんな店に行くときも、事前に持ち込みの連絡を入れます。「お店のワインもちゃんと飲みます。でも、日本酒も持ち込みたいんです。持ち込み料をいくらとっても構わないし、何なら食事代を超えても構わないから」と。妻には文句を言われますし、店にもちょっとポカンとされますが。

矢都木:食事代を超えてもいいっていうのは、なかなかですね。なぜそこまでして持ち込むんですか?

桜井:単純に興味があるんです。「この料理と合うかな」とか、「このワイン飲んだ後だと日本酒の味が消えてしまう!」とか、色々な角度から獺祭を見る事ができますし。矢都木さんは、なぜ他社のラーメンを食べないんですか?

矢都木:「業界のどこを探してもない革新的なラーメンを生み出したい」という思いがあるからですね。新商品をつくるときは、過去に自分が食べたものや見てきたものを組み合わせると思うのですが、そのデータベースの中に他社の商品をインプットしたくないんです。

桜井:それも先代からの教えですか?

矢都木:ストレートに言われたわけではないです。ただ一つ、心に残っている先代の名言があって。「ラーメンを作ることが仕事ではない。お客様に喜んでもらうことが仕事だ」という言葉です。つまり、業界研究をして他社より美味しいラーメンを作ろうとするのではなく、お客様が喜ぶラーメンを一途に追及しなさい、と。この言葉を聞いた瞬間、肩の荷が下りたんです。

桜井:なるほど。私も、日本酒を飲み比べてマニアックに追及するより、獺祭を飲んで「美味しい」と言ってくれるお客様を見ているほうがずっと好きです。

矢都木:業界研究より、自社研究ですよね。

桜井:お客様には、自社の商品を味わって喜んでもらいたいですからね。他社のお酒で喜んでいる姿を見ても、悔しいだけ。

矢都木:ですよね。だから僕も、意地でも他社には行きません。ただ唯一、奥さんや子どもが「食べたい」って言ったときだけは、折れて食べに行きます(笑)。

──旭酒造と麵屋武蔵、どちらもブランド力があり、「獺祭」や「ら~麺」が好きで入社される方がいると思います。社員は積極的に自社研究をしているのでしょうか?

矢都木:自社研究をするだけではダメなんです。「好き」を軸に自社研究をしたとしても、上手くいく人と、そうでない人がいるんですよ。

桜井:うちにも酒造りが好きで入社する人がいますが、その気持ちだけでは続かないです。どちらかというと、仕事としてお客様のために酒を造っている人が伸びる。

矢都木:そうですね。麵屋武蔵にも、たまにラーメンマニアみたいな人が入社しますが、続かないです。決して仕事ができないわけではないんですが、そういう人は自分のためのラーメンを作ってしまう。一方で上手くいく人は、お客様のために商品を作って、それを何よりも嬉しく感じるんです。
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インタビュー=谷本有香 構成=華井ゆりな 写真=藤井さおり

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