おバカ映画で笑えなくなった、米ミレニアル世代の厳しい現実

Photo by Jeffrey Mayer/WireImage

自宅をカジノに変身させるというぶっ飛んだコンセプトに、主演はあの愉快な大人子供コメディアン、ウィル・フェレル──。ヒット映画に欠かせない要素を備えていたはずのコメディ「The House」(原題・6月末全米公開)が不発に終わった。この映画のどんちゃん騒ぎは、今の観客が求めているものではなかったのだ。

「The House」だけではない。結婚を控えた女性が女友達と羽目を外すスカーレット・ヨハンソン主演の「Rough Night」、ゴールディ・ホーンとエイミー・シューマーが南米で誘拐される親子を演じる「Snatched」、90年代に人気を博したドラマのリメイク「Baywatch」も大胆なコメディ要素が売りだったが、興行成績は振るわなかった。

映画ファンはなぜ、これらのおバカコメディを楽しめなくなったのか? 

映画会社は映画が大コケすると、レビューサイト「ロッテン・トマト」や動画配信サービス「ネットフリックス」のせいにしがちだ。確かにこの類のコメディに関しては、その二者の影響は大きい。おバカコメディが批評家に高く評価されることは稀であり、事前にロッテン・トマトの低い点数を見ることで二の足を踏む人は多いだろう。

昨今人気のスーパーヒーロー映画をはじめとするスペクタル作品は映画館で鑑賞しても、おバカコメディは自宅のソファでピザを食べながら観られれば十分だと考える人もいる。それに、少し待てばネットフリックスで配信されるのだ。アダム・サンドラー主演によるネットフリックス限定の映画「リディキュラス6」は、批評家には酷評されたものの、驚異的な視聴率を上げたという。

ミレニアル世代はシニカルさを好む

しかし、ロッテントマトとネットフリックス以外に、大きな問題がある。それは前出の作品や、大ヒットした「ハングオーバー」や「テッド」で大笑いする感覚が、過去のものになりつつあるということだ。

昨年の大統領選以来、米国の文化は劇的な変化を遂げた。人々は分断され、互いに怒りをぶつけ合い、オバマ政権時代には見られなかったとげとげしい空気が充満している。人々の暮らしから楽しみが失われている。

おバカコメディは、観客の共感を得られて初めて成立するジャンルだ。人々は二日酔いで騒ぐ登場人物たちを見て、学生時代のハチャメチャな日々を思い出す。しかしその学生時代とは、ミレニアル世代の親世代が過ごしてきたものだ。ミレニアル世代は高校卒業後も実家に住み、学生ローンの返済に追われている。自動化の波によっていつ仕事を失うかわからない、地球がいつまでもつかわからない不安の中で暮らしているのが現状である。

ミレニアル世代が好むのはシニカルな作品だ。「ゲーム・オブ・スローンズ」、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」のような政治の駆け引きを描いた作品や、ディストピア小説「侍女の物語」をドラマ化した「Handmaid’s Tales」は人気がある。もっとも彼らがユーモアを理解しないということはなく、「マスター・オブ・ゼロ」や「GIRLS/ガールズ」など、クリエイターの洞察力が光るコメディはファンが多い

コメディというジャンル自体が廃れたわけではない。ただ、ウィル・フェレル世代のコメディが、時代に合わなくなっている。ミレニアル世代は、男たちがつるんで酔っ払い、家中にゴミを投げ散らかす姿を見て「なんて愉快なんだ!」と感じる前に、「どうやったらあんな家に住めるのか?」と思うのだ。

編集=海田恭子

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