ビジネス

2017.08.06

芥川賞は岩手県、直木賞は長崎県 なぜ地方在住作家が増えているのか? 

長崎県佐世保 (kan_khampanya / Shutterstock.com)

第157回芥川賞と直木賞が決定した。芥川賞は岩手県在住の沼田真佑氏(38歳)、直木賞は長崎県在住の佐藤正午氏(61歳)。両氏ともに今回が初ノミネートでの受賞だが、そのキャリアは実に対照的だ。

沼田氏は北海道小樽市生まれ、九州は福岡市の西南学院大学を卒業、現在は盛岡市に住み、塾講師をしている。受賞作となった「影裏」は今年4月に文学界新人賞を受賞したばかりのデビュー作だ。まだ発表作品が1作しかないことを、本人は記者会見で「ジーンズを1本しか持っていないのに、ベストジーニスト賞を受賞したようなもの」と自嘲気味に語り、会場から笑いをとった。

一方、佐藤氏は長崎県佐世保市の生まれ、北海道大学文学部を中退後、故郷に戻り、1983年に「永遠の1/2」で第7回すばる文学賞を受賞してデビュー。今年で作家生活35年を数えるベテラン作家だ。受賞の発表は佐世保市で待ち、記者会見は異例の電話による一問一答となった。

かたや本年デビユー、かたや作家生活35年、かなり対照的な沼田氏と佐藤氏のキャリアだが、奇しくも両氏ともに北海道と九州に住んだ経験があり、現在の住まいも東京や大阪などの大都市周辺ではなく、東北と九州の地方都市に在住している。

記者会見が売り上げに直結する

芥川賞と直木賞の発表は、近年はテレビの情報番組などでも取り上げられ、一般的にもかなり注目も集めているが、当日の記者会見での受け応えが受賞作の売り上げに影響するようにもなった。

2011年に「共喰い」で第146回芥川賞を受賞した田中慎弥氏は、記者会見に不機嫌な表情で臨み、「(受賞を)断ったりして気の弱い委員の方が倒れたりしたら、都政が混乱するので、都知事閣下と東京都民各位のために、もらっといてやる」と選考委員のひとりで当時都知事でもあった石原慎太郎氏を揶揄するような発言でセンセーショナルな話題を集め、受賞作「共喰い」の発行部数は刊行2週間で20万部に達した。

また、2013年の第149回直木賞では、「ホテルローヤル」で受賞した桜木紫乃さんが、人気バンドであるゴールデンボンバーの熱烈なファンで、受賞の記者会見にメンバーの鬼龍院翔が愛用している模型メーカー「タミヤ」のロゴ入りTシャツを着用して臨んだため、翌朝のテレビの情報番組でその映像が集中的に流され、受賞作の「ホテルローヤル」は50万部を超えるベストセラーとなった。

近年、その場でのパフォーマンスが売り上げ部数に直結すると言われるほど、重要視されるようになった両賞の記者会見だが、たいていの作家は受賞した場合に会見場の帝国ホテルへすぐに駆けつけられるよう、都内で発表を待つことが多い。なかには、ゲンをかついで、受賞者を数多く出すバーで待つ作家もいる。ちなみに芥川賞を受賞した沼田氏は、岩手県盛岡市から上京して発表を待った。
次ページ > なぜ地方にこだわるのか

文=フォーブス ジャパン編集部

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事