今年5月、ビットコインコミュニティの主要プレーヤーである取引所やウォレット、数百万人のユーザーを代表する企業らは、マイナー(採掘者)やネットワークの運営に関わる企業とスケーラビリティ問題に終止符を打つことで合意していた。
「事態の前進に向けて関係者の賛同が得られたことで、今後ネットワークに重要な変更があった際に、再び膠着状態となることは防げるだろう」とOB1のCEO、Brian Hoffmanらは述べている。
しかし、まだ大きな問題がいくつか残っている。一つは、これまでプロトコル開発の中核を担ってきたコア開発者が「SegWit2x(またはニューヨーク協定)」と呼ばれる今回の協定に誰も署名していないことだ。また、協定はまずSegwitをアクティベートし、90日後にブロックサイズを1MBから2MBに拡張するという段取りになっており、2つ目のステップが実行されるかは不透明だ。ブロックサイズの拡張は11月に予定されており、そのタイミングでビットコインが分裂するか否かが決定することになるだろう。
「これまでビットコインと呼んでいたものがビットコインでなくなることを、市場関係者全員が合意しなければならない」とコア開発者の一人であるEric Lombrozoは述べている。一方、Hoffmanは、「分裂するかどうかはまだ決まっていない。当面は激しい論争が続くだろう」と話す。
コア開発者は誰も合意していないが、Lombrozoによると彼らの一部は惨劇の回避に向けて努力しているという。企業側がマイナーの支持を集めたものの、コア開発者の取り込みに失敗したことについてLombrozoは、「組む相手を間違えている」と非難する。
依然として残る「思想的な対立」
「マイナーはより多くの報酬を手に入れたいと考えているのに対し、企業側はなるべく報酬を支払いたくないと考えており、両者の利害は一致しない」と彼は言う。
他方で、SegWit2xの狙いは企業をサイファーパンク(暗号技術の広範囲な利用を推進する活動家)に対抗させることだと見る向きもある。なぜならば、企業には取引所やウォレットだけでなくマイナーも含まれるのに対し、開発者は思想的な理由から反対しているからだ。
Lombrozoをはじめとするコア開発者たちは、ブロックサイズの拡張は中央集権の強化や、少数のマイナーへの権限集中につながるとして反対している。ブロックサイズを拡張するには、「ハードフォーク(互換性のないアップデート)」を実行する必要がある。
「異なる状況下であればハードフォークでも問題ないが、今回に関してはビットコインの分裂リスクが高まるだけでなく、これまでのプログラムやビットコイン、契約などが使えなくなる可能性がある。ハードフォークの脅威が高まるたびにマーケットは暴落する」とLombrozoは話す。
これに対し、Hoffmanは「相場は、先週の2000ドルから2800ドルに回復しており、市場がハードフォークを拒絶している訳でない。ハードフォークは恐ろしいという先入観が広まっているが、ビットコインはいずれハードフォークを行う必要がある」と述べ、早く実行しなければ多くの人が他の仮想通貨に乗り換えると警鐘を鳴らす。
ビットコインコミュニティはこれまで3年近くも議論を重ねてきたにも関わらず、対立が生じた際に開発者がどのような基準で意思決定を行うべきか、両者から有意義な提案が出ていないのは驚きだ。