テクノロジー

2017.07.28 17:00

「見える化」で農業が変わる 経験がなくてもできる時代に

photograph by Donggyu Kim (Nacasa&Partners)


「篤農家と呼ばれる経験豊富な方々がとりわけ減ってきているんです。気候や環境の変化があっても、以前は彼らが経験や知識、勘によって圃場の状況や作物の色、雑草の様子を判断し、肥料を見極めていた。それをできる人たちが少なくなり、経験と技能伝承ができなくなっている」
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センシングは、そうした篤農家の目と脳の代わりになる技術だ、と話す。

農家の悲願だった「ばらつき」の把握

しかし、農機具メーカーのヤンマー・グループはともかく、電気機器メーカーのコニカミノルタはなぜ、農業事業に対して強い関心を抱いていたのだろうか。
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実は同社の製品と農業には、20年来の深い関係がある。

日本の米作農家では稲の生育状況を調べる際、コニカミノルタ製のSPADという測定器が標準的な機器として使用されている。SPADはポケットにも入る小型の機械で、植物の葉をセンサーに挟みこむことで、そこに含まれる緑葉素量を計測できるものだ。例えば前述の出穂前の時期の水田では、営農指導員が畔あぜに座り込み、稲の育ち具合を調べている様子が見られるはずである。

ただ、圃場で一株ずつ数値を測定するSPADには、土壌の状態を判断する上で精度の限界があった。仮に30アールの広さの水田について考えてみても、そこで育つ稲の数は約6万株に上る。従来の測定のやり方では、圃場ごとに10~20株の数値を調べ、その平均値で土壌の大まかな良し悪しを判断するしかなかったわけだ。

「圃場というのは一つひとつの中にもばらつきがあるんです。そこに肥料を均一に撒いてしまうと、米の出来不出来が生じてしまう。空中からのセンシングの最も大きな役割は、これまで“点”で把握していた圃場の状態を、“面”で『見える化』することにあります」
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農機のICT化がもたらす3C構想 (1)田植え前には土地が持つ作物を育てる能力、田植え後には生育状況を診断し、面データを作成。(2)面データに基づき、場所ごとに最適な基肥の量を指示。(3)生育状況などのフィードバック。(4)生育診断に基づいた、最適な追肥量を指示。雑草が生えている場所を狙った農薬散布。

この「面による圃場の見える化」を可能にしたのは、数年前にコニカミノルタが開発した「IRカラーカメラ」と呼ばれる技術だ。もともとは自動車向けのセンサーとして開発されたもので、近赤外光を取り込みながらフルカラーで映像を撮影できる。

「この技術を開発後、しばらくしてNDVI(光の反射率でSPADと同等の測定を行う植生評価の計算式)という概念を知り、農業分野に応用できないかという話になったんです」と星野は振り返る。そうして山形大学の土壌の専門家・藤井弘志教授に技術的な意見を求めたことが、ISSA山形というプロジェクトへとつながった。

光学技術に強い関心を示したのが、実際に農業の現場で生産者と接しているヤンマーヘリ&アグリだった。同じくセンシング事業の責任者で、同社の常務取締役・技術サービス部担当の長田真陽は語る。

「これまでのSPADによる調査では、追肥が必要な圃場が見つかっても、均一に肥料を撒くしかありませんでした。対して圃場全体の生育状況が細かく分かれば、良い所には肥料を少なく、悪い所には多くという『可変追肥』を効率的に行える。いわば、圃場内のばらつきを把握することは、農家の悲願であったんです」

また、圃場内の良し悪しを可視化したマップやデータは、「追肥」だけではなく翌年に向けての土壌改良にも活用できる。

「上空からのセンシングは血液検査のようなもの。悪い箇所が分かりさえすれば、農家は様々な打つ手を持っているものです」

サブソイラー(心土破砕機)で上下の土を入れ替えるというのも一例。データを活用した本質的な処方を施し、データをもとに生産性の高い安定した農地をつくることができるというわけだ。

ドローンが可能にした正確なセンシング

ヤンマーヘリ&アグリにはすでに無人ヘリによる農薬散布の実績があり、全国の42パーセントの農家が無人ヘリを散布の際に使用していた。その無人ヘリにカメラを取り付けることができれば、同じ割合の圃場を「見える化」できるはずだ──。
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文=稲泉 連 イラストレーション=ムティ(フォリオアート)

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