Carlsberg SAや Lindt & Sprungli AG、Navyboot Zurichなどでマーケティングディレクターを歴任したあと、ラグジュアリーレッグウエアFogalのCEOを務めていたグゼル氏。彼女が見出したIWCの魅力、そして女性リーダー像とは―—。私がよく聞かれる質問がふたつあります。ひとつは「なぜ他社でCEOまで上りつめた人間が、ポジションが下がるほかの道を選んだのか」ということです。キャリアの道はひとつではありません。たくさんの選択肢があるなかで、自分にとって最も魅力的なところを選びたい。その意味において、IWCは理にかなっていました。
私自身はスイス人で、私の家族はシャフハウゼンにルーツがあります。スイス人にとって機械式時計は特別なもの。私は幼いころよりIWCというブランドを知っていましたし、そんなラグジュアリーウォッチの業界でいつか働いてみたいと思い続けてきました。
私自身がこれまで身をおいた企業もそうでしたが、継続的に成功している企業というものは、常に素晴らしい製品をもっています。ただ、これまで勤めていた企業とIWCで大きく違う点があるとするならば、例えばチョコレートのような大量消費財は、人々はショップに入ってすぐに商品を買い求めるのがソリューションですが、IWCの場合、例えばブティックに入るまでだけでも1年もの時間を経る場合があります。
私たちはその過程を「ジャーニー」と呼んでいるのですが、その長い旅路のなかで、どれだけIWCブランドがもつストーリーを皆さまに伝えていけるかが重要なのです。IWCが長い歴史をかけて構築してきた6つの時計コレクションファミリーがもつ、時代を超えて引き継がれているアイデンティティーやアイコン。私はそれらに魅せられたのです。それこそがIWCに入った理由でした。
そして、もうひとつの質問は「女性であることがリーダーとなるうえで不利にならなかったか」というものです。
確かにラグジュアリー業界のなかで、シニアマネジメントに女性がいることはまれですし、私自身、数え切れないほどの試行錯誤や失敗を経験してきました。けれど、ジェンダーを気にしたことはありません。
唯一、女性である不利な点は、先入観から女性である私がリーダーシップをとることはできないのではないかと思い込んでしまうことにあると思います。しかし、私は幸運でした。26 歳で初めてマネジメントする立場になった時に、ある男性からかけられた「あなたならできる」という言葉で自信を得て、それからは私のスタイルでリーダーシップをとればいいと思うようになったのです。
女性なのに女性の服を着た男性のようなリーダーが多いのも事実。もしそれが世で言う「成功する」ということであるなら、私はそれに対してNOと言うことができる。
「自分らしく生きる」、これが私にとってとても重要なのです。