IWCの前副社長であり現在ボードメンバーのハネス・パントリ。IWCを代表する人物のひとりとして広く知られ、長きに渡りIWCの変化と挑戦を率いてきた。そんなパントリ氏にIWCの魅力を聞く。私がIWCに入社したのは、クオーツ時計の開発がもたらした時計市場へのショックと、ブレトンウッズ体制の崩壊によるスイスフラン高というふたつの衝撃が走っているころでした。スイスの時計業界にとっては苦難の時代でしたが、当時の私にとってその状況は大いなる挑戦でもありました。
忘れられない出来事のひとつに、1978年のクリスマスディナーがあります。時計師のクルト・クラウス、そして販売とマーケティング責任者だった私、そして、デザイナーのハノ・ブルトシャーの3人がテーブルを囲んでいました。
クオーツの打撃を受けて衰退した機械式時計を復活させるにはどうしたらいいかという話し合いが行われていました。そして、この夜、IWCの歴史が大きく動くのです。それはひとつの時計のアイデアの誕生でした。懐中時計のムーブメントを基にエレガントかつ頑丈な腕時計をつくるという、アイデアが生まれた瞬間です。
それが品格ある佇まいで人気の「ポートフィノ」コレクションの誕生につながりました。
確かに私がIWCに携わった四十数年のなかには、数々の危機がありました。しかし、私たちはそれを一つひとつ乗り越え、ブランドとしての自信とともに私たちの歴史をつくってきたのです。
そういう意味においては、スマートウォッチの誕生に対しても恐れはありません。なぜなら、もはや人々は時刻を知る目的で時計を身につけてはいないからです。
時代は大きな変化をとげました。私がこの業界に入ったころに時刻表示の「正確さ」のために高品質の時計を買い求めていた人たちは、いまや時計をアクセサリーとして買うのです。特に時計は男性にとってほとんど唯一と言っていい、身に着けられるジュエリー、アクセサリーです。しかも、そこに歴史や物語があることが重要なんです。それは他人にあなたがどう映り、あなたをどう理解するかにも影響します。それをスマートウォッチで補うことは難しいでしょう。
私はIWC 時計の収集家としても知られていますが、いわゆる典型的なコレクターではありません。私にとって時計は、見た目の美しさだけでなく歴史観や含まれる美学が重要なんです。IWCの強みは革新と挑戦で時代を築いた歴史的なタイムピースを多く持っていること。そして、その伝統を大切にしつつ、さらなる進化をとげていくでしょう。