ナイトスコープ(Knightscope)社が開発したこのロボットは、スティーブという名前の勤務開始から1週間目の “新人” だったという。スティーブは噴水の周囲の階段につまずき、悲惨な死を迎えることになってしまった。
実は筆者はこのスティーブに会ったことがあった。彼の勤務地であるジョージタウンの施設を散歩している際に彼を見かけたが、その時スティーブは充電マットの上で、パワーをチャージしている最中で、胸には「シリコンバレー出身(Designed and built in Silicon Valley)」との文字が誇らしげに表示されていた。
一体なぜスティーブは頭から噴水に突っ込むような事になったのだろう。報道によると、センサーが階段を検知できなかったからだという。筆者は過去に歩きスマホの人物が、その噴水にはまった現場を目撃していた。かわいそうなスティーブも同じ運命をたどってしまったのだ。
スティーブのような警備ロボットは、現状では「動くセンサー」的な能力しか持っていない。しかし、近い将来、彼らはディープラーニングで知能を磨き上げてある日、人間のような「意識」を持つようになるかもしれない。意識を持ったロボットが、スティーブと同じような目に遭えば、彼らは雇い主や製造元を「欠陥のあるセンサーを装着させた罪」で訴えることになるかもしれない。
一方で、今回のスティーブの死は事故ではなく、誰かがスティーブの背中を押して、噴水で溺れさせた可能性もある。ここ最近、防犯ロボットの導入は各地で進み、酔っぱらいや心無い若者たちからイタズラの被害に遭うことも多い。
スタンガンで武装する警備ロボット
ロボットには録画機能がついているため、ある程度の抑止力は持っているが、それだけでは十分とは言えない。警備ロボットは究極的には、自分の身を守る能力を持つべきなのだ。酔っぱらいや悪党たちが、警備ロボットに犯罪的行為を見られた場合、現状では彼らは目撃者であるロボットを破壊する手段に出る可能性が高い。
銀行や軍事施設で活用されるロボットを考えた場合、頑丈な鎧を身につけてサイレンを鳴らす機能を持ったとしても、それだけでは不十分だ。銀行に押し入ろうとする犯罪者を、スタンガンで撃退するロボットがあってもいいはずだ。
しかし、ロボットが犯人を死なせてしまった場合、法的責任を問われるのは誰になるのだろう。ロボット自身か、製造主か、プログラマーかもしれないし、彼を雇用した銀行の責任になるのかもしれない。
知的ロボットに関する倫理的議論は、大学や政府レベルでは始まりつつあるが、自動運転車をめぐる議論ほどは真剣に話されていないのが現実だ。ロボットの法的責任は、まだ未来すぎる話としか考えられていない。
しかし、今回のスティーブの悲劇的な死が暗示するのは、我々が想像する以上に早く、ロボットをめぐる倫理的課題が現実に浮上する可能性だ。センサーや録画機能を備えたインテリジェント・ロボットの導入は、荷物の配送や警備等のあらゆる場面で進んでおり、ロボットの知的レベルも飛躍的に進化している。
近い将来、事故死した警備ロボットが「訴えてやる!」という断末魔の叫びを発信して、世間を騒がすことも考えられる。