しかし、アマゾンが今後、音声スピーカーで香港や中国市場を制覇できるかを考えた場合、様々な面で疑問が浮かぶ。
アマゾンの音声アシスタント「アレクサ」関連デバイスは、米国で既に1500万台が売れたと試算されている。しかし、中国ではレノボやファーウェイもアレクサ対応デバイスを発売し、製品のクオリテイも高く価格も安い。中国のシャオミは、低価格で高品質なスマホを生み出すことで知られるが、この分野でも同じ事が起こり得るだろう。
音声アシスタントの頭脳と言えるのがAI(人口知能)だ。グーグルのAIのAlphaGoは、碁の世界チャンピオンの中国人棋士を負かしたが、これで勝負がついたという訳ではない。
中国の大手テック企業らは一斉に独自のAI開発を始動させ、中国語の音声アシスタント開発でしのぎを削っている。アリババは音声スピーカーのTmall Genieを発表し、バイドゥはスタートアップのiNemoとの取り組みを始動。テンセントはQRobotというデバイスを投入し、JD.comもDingDongと呼ばれる製品を開発中だ。
また、シャオミは子供向けの音声アシスタントスピーカーのMi Bunnyを発表した。AI関連のスタートアップでは、Mobvoiが累計2億5200万ドル(約280億円)を調達したほか、企業価値4億5000万ドルのRokidも直近のシリーズBで5000万ドルを調達している。
中国企業がAIの覇権を握る可能性
この分野に詳しいスマート照明企業YeelightのEric Jiangは「中国では2017年の終わりまでに数十ものアマゾンエコー的なデバイスが登場する。スマートホーム関連の市場も競争が激化する」と語る。アマゾンが音声アシスタントを中国に正式対応させる前に、中国では既にこの分野の競争が高まっている
この動きは一見すると、中国のコピー製品が新たな領域に進出を開始したようにも見えるが、中国企業らはAI開発に本気で取り組んでいる。AI関連の特許出願件数で中国は、米国に次いで2位のポジションにつけている。
また、AI関連の人材を中国のテック企業が海外から招き寄せる動きも盛んだ。今年3月までバイドゥでチーフサイエンティストとして勤務し、人工知能の権威として知られるアンドリュー・ウ(Andrew Ng)はこう述べていた。
「現代の中国人たちは英語を主要言語とする世界で起きていることを、非常に深いレベルまで理解している。しかし、英語圏の人々の中国に対する認識は全く浅い」
西側の人々が気づかないうちに、中国企業らがAIや音声アシスタント技術を磨きあげ、やがて世界の覇権を握る可能性もある。アマゾンは中国市場をどう攻略するかを、そろそろ真剣に考える時期なのかもしれない。
筆者は「アマゾンは中国で勝てると思うか?」とアレクサに聞いてみた。「ごめんなさい。私には分かりません」とアレクサは答えた。