「価値あるモノづくり」への挑戦から生まれた世界に4脚の椅子

不思議な浮遊感があるアームチェア「ソラリス」。その横には天板が浮いているように見えるテーブルも展示。蟻組みという伝統的な手法を使っている。

多くのデザイン・インテリア関係者が集まるミラノサローネは、新たな才能を世界へ発信する格好の場所である。「JAPAN DESIGN WEEK in MILANO 2017」は、東京や日本のクリエイティブを紹介するイベントであり、ミラノにおけるデザインの聖地、ミラノ・トリエンナーレ・デザイン美術館にて開催された。

日本から世界へ。をキーワードに、デザインや技術をアピールするこの場所に、初めて参加したのが「tasca4D」というプロジェクト。これは20年後も残る“価値のあるモノづくり”を支援するというもので、今年発表したのは「ソラリス」という、木とアクリルを融合させた椅子である。

「スクエアなフォルムで構成しているので、いかにも硬そうに見えますよね。しかし49個の木のキューブで構成された座面が沈み込むので、実は座り心地がよいのです。私が考案したデザインとコンセプトを形にしてくれたのは、日本初の家具モデラーである宮本茂紀さんです」とデザイナーの安田喬は語る。

独創的なデザインもコンセプトも、強度や製造方法に無理があれば具現化できない。そこで実現を可能にするための技術や構造を考案するのが、家具モデラーの仕事なのだ。


(左)硬そうに見えるが、座面をぐっと押すと沈み込み、座り心地に優れる。(右)透明度は高いが、接合部分が見えず、細部まで美しい。

しかも座面にはめ込んだ木材もユニーク。ブラジリアンローズや黒檀などの希少な材料だけでなく、パリのシャンゼリゼ通りに生えていたプラタナスや屋久杉など、滅多に手に入らない世界中の木を使用した。「いうなれば、世界に座っているのです」という安田の言葉が胸に響く。
 
なお、希少な木材を49種も揃えることは不可能なので、椅子は4脚しか作ることはできない。最高の技術で最高のモノを作るという話は珍しくはないが、そこにエモーショナルなストーリーが加わると俄然興味が湧いてくる。会場を訪れたデザイン関係者たちも、スタッフに促されると椅子に座り、そして予想外の座り心地と美しい仕上げに驚いていた。
 
tasca4Dはモノづくりの本質に正面からぶつかり、伝統だけではなく、そこに“未来”を加える。その新しいチャレンジを、ミラノの人々は好意的に受け入れてくれた。ミラノサローネとは、世界への扉が開かれる場所なのだ。


右がデザイナーの安田喬。1986年に多摩美術大学を卒業し、セゾングループでVMDや家具の商品開発を担当。95年に独立し、キョウデザイン事務所を設立。左はプロジェクトをサポートするアステージの代表取締役である原祐一で、中が専務取締役の須田賢一郎。

edit&text by Tetsuo Shinoda

この記事は 「Forbes JAPAN No.36 2017年7月号(2017/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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