AI分野で最注目のスタートアップ「Clarifai」創業者、30歳の野望

「Clarifai」創業者のマシュー・ズィーラー(Photo by Mike Coppola / gettyimages)


グーグルにデータを吸い取られる恐怖

ズィーラーはClarifaiをグーグルやマイクロソフトの規模にしたいとは考えていない。しかし、AIの領域で中立的ポジションをとることは非常に重要だと考えている。AI分野のスタートアップは蓄積したデータをグーグルやアマゾン等の巨大企業に吸い取られる恐怖にさらされている。

写真共有サービスのPhotobucketは現在Clarifaiのサービスを利用中だが、同社の幹部は「グーグルの解析サービスを利用する場合は自分たちのデータを結局、グーグルのシステムのトレーニングに利用されてしまうことを考えたほうがいい」と語る。Photobucketはかつてグーグルの画像解析サービスを用いていたが、その後、グーグルは自社の写真アプリにPhotobucketの競合となる機能を盛り込んだ。

ズィーラーによると、これは巨大テック企業の終わりなき拡大への欲望の一例にすぎない。「グーグルのサービスを使っていると、ある日突然、自社の競合となるサービスをグーグルが立ち上げることになる。Clarifaiはそんなやり方をしたくない」

現在30歳のズィーラーはカナダのウイニペグから40マイルの小さな町で育った。AI領域にのめり込むきっかけになったのは、トロント大学の学生時代に見たビデオだった。人間が撮影した動画のように思えたが、実際は人工知能が生成した映像だった。

当時、ズィーラーはプログラミングの基本を修得したばかりだったが、本気で何かをやろうとは思っていなかった。「でも、その動画を見た時に頭をぶん殴られたような気分になった。人間があれこれ指図するのではなく、コンピュータが蓄積されたデータから自分で動画を生成するのを見て、ここにはもっと学ぶべきことがあると思った」

ズィーラーはその後、ニューラルネットワークの権威として知られるGeoffrey Hintonが運営するラボに向かった。そこでズィーラーはAIを用いた鳩の行動の分析を行い、最初の論文を執筆し、トップの成績で大学を卒業した。

その後、トロント大学で出会った友人の紹介で、ニューヨーク大学の博士課程に進んだ。友人はディープラーニング分野のパイオニアとして知られ、現在はフェイスブックのAI部門を率いるYann LeCunのもとで働いていた。その後、グーグルでインターンを行い、後にグーグルブレインの部門長を務めるJeff Deanとつながりを持つことになった。

ズィーラーは2013年の11月にClarifaiを創業し、この分野で最も権威あるコンテストとされるImageNetに応募し、その実力を認められた。創業から数ヶ月の間、ズィーラーは一人でディープラーニング技術を磨き上げ、その技術を商用化可能なレベルに仕上げた。自室のサーバにクローラーを仕込み、ウェブ上の画像データを収集しアルゴリズムを鍛え上げた。

サーバが熱を持ち、真冬にアパートの部屋の全ての窓を開けて外気を取り入れたこともあった。2014年の春になり最初の社員を採用し、ニュージャージーのデータセンターにサーバを移設し事業を拡大。10月にサービスの一般公開に漕ぎつけた。

Clarifaiの最初の顧客となったのは結婚式サービスのStyle Me Prettyという企業だった。同社は数千に及ぶ結婚式の写真にマッチする広告を同社のウェブサイトに掲載している。
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編集=上田裕資

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