最も身近で代表的な例は、カラフル・ボード株式会社が提供するファッション人工知能アプリ「SENSY」だろう。ユーザーのファッションセンスを学習し、2500を超えるブランドからその人に似合うコーディネートを提案してくれるアプリだ。
同社代表で、もともと慶応大学で人工知能の研究をしていたという渡辺祐樹氏は、情報過多で自分が欲しいと思う商品との“出会い”が生まれにくくなっているからこそ、「ソリューションとして人工知能に自分のことを理解してもらって、情報を集めたり、他の人工知能に問い合わせたりすることで求めている情報を得られるようにするためにSENSYを開発した」とウェブメディア「ferret」のインタビューで話している。
SENSYは画面上のファッションアイテムの画像をピクセル単位で認識し、色、柄、形などの情報を組み合わせて、その人の好みを計算するという。従来のレコメンデーション機能が過去の購買履歴のビッグデータを解析したものであるのに対して、SENSYは「あくまでユーザー本人の頭の中の“感性”をベースに商品とマッチングに使っている」(前掲の渡辺氏のインタビュー記事)という。
「人の感性(センス)を理解する人工知能」がうたい文句だ。まさに、ユーザー一人ひとりの“専属スタイリスト”となる人工知能アプリだろう。
AIによる”接客”で顧客のニーズを分析
最近ユニクロがオンラインストアを一新したことからもわかる通り、現在、アパレル業界の売上の約8%は、電子商取引(EC)サイトといわれている。しかもその割合は、毎年2~3%も向上しているという。
そんなECサイトを中心にした“接客”においても、人工知能が一役を担う時代になってきた。チャット接客システム「OK SKY」を提供している株式会社空色は、オリーブ・デ・オリーブのLINE@アカウントで、商品の提案から購入まで対応できる自動接客システムの提供を開始すると発表。バックエンドで人が回答していた従来のチャット接客システムにAIを導入することによって、接客数や営業時間の拡大、人員の効率化、より多くのデータ収集や分析が可能になる見込みだ。
人の代わりにテキスト解析をして学習する人工知能は、IBM Watsonだという。空色取締役副社長の小林福嗣氏はウェブマガジン「FUTURE STRIDE」のインタビューで「現在は、スタッフの代わりにデータを蓄積したIBM Watsonがチャットを代行します。会話の70%は要件定義なので、お客様が何を求めているかはこれまでの蓄積で解決可能です」と話している。今後はさらにチャット内の流れを自動化していくという。
天候情報と過去の販売データで売上や在庫を予測
コーディネートや接客などの領域で人工知能が活躍しているわけだが、ファッション業界には、より重要な長年の課題がある。膨大な在庫と廃棄によるロスだ。人工知能は業界が慢性的に抱えている“悩みのタネ”を解決する上でも一役を担っている。例えば、天候が売れ行きを左右することは、アパレル業界の常識だろう。「暖冬で冬物が苦戦」などと報じられるわけだが、そんな天候による在庫リスクを人工知能で最小限に抑えようとの取り組みが始まっている。
一方、システム開発会社ジェイモードエンタープライズは、最新天候情報とジェイモードが持つ過去の膨大な販売データを組み合わせ、店舗や製品カテゴリーごとに売上予測を提示するAI予測機能を開発した。同社の大久保勝広社長は、「セール時期までに売れる消化率が6~7割だったところを、8割程度に引き上げられる。値下げせずに販売する量が増え、大幅な利益改善が見込める」と話している(日本経済新聞 電子版2016年6月17日付)。