ビジネス

2017.07.18

家族主義と業績主義を両立させる「有言実行の経営」

(左から)デロイト トーマツ コンサルティングの日置圭介氏、BASFの須田修弘氏、早稲田大学大学院の入山章栄氏

創業152年、ドイツ発の世界最大手の化学メーカーBASFは、「欧州企業に学べ」という企画趣旨に最適な企業だ。

「総合」「多角化」を好みながらも苦戦している日本企業が多い中、BASFは大規模な事業ポートフォリオの組み替えを行いながらも、創業から一貫して「総合化学会社」であることを強みに事業を展開。現在は世界に6カ所の統合生産拠点、352カ所の生産拠点を構えている。
 
早稲田大学大学院(ビジネススクール)准教授・入山章栄とデロイト トーマツ コンサルティング執行役員パートナー・日置圭介は、BASFを「家族主義と業績主義を両立させている、稀有な企業」と評価する。なぜBASFは、両立を実現できているのか─。日本法人の代表取締役副社長兼財務管理統括本部長を務める須田修弘に、話を聞いた。


入山章栄(以下、入山):BASFは、「ゲマインシャフト(家族共同体)」という言葉で表現される、ドイツ企業ならではの従業員を大事にする「家族主義」を維持しながらも、好調な業績を上げ続けています。なぜ、BASFでは、多くの日本企業に難しいことが実現できているのでしょうか。

須田修弘(以下、須田):まず、BASFには明確な戦略があります。「ワンカンパニーとしての付加価値を創出」「ベストチームを編成」など、「Wecreate chemistry for a sustainable future.(私たちは持続可能な将来のために、化学でいい関係をつくる)」という目的を支える4つの戦略方針を掲げています。重要なのは、これらの言葉をただのスローガンで終わらせないこと。BASFでは、「戦略をどう現場での日々の仕事に落とし込むか」を強く意識しています。

日置圭介(以下、日置):具体的には、どのような施策を実施されているのでしょうか。

須田:例えば、「ワンカンパニーとしての付加価値を創出」という戦略方針では、「付加価値」を「利益が規定されたキャピタル・コスト(資本コスト)を上回ること」と明確に定義しています。2016年度は、基準となる資本コストを10%に設定し、全事業を評価しました。

次に、こうしたKPI(重要業績評価指標)を現場に落とし込むために、製品単位でも、グローバルの連結収益が算出できる全社統一のシステムがあります。そうすることで、一人ひとりがワンカンパニーとしての連結業績を意識して、日々の意思決定ができるわけです。

KPIを算出するための、大規模なシステムのつくり込みについても、十分な時間をかけ投資も実施してきました。全社のバックオフィス業務の一部を一括で行うシェアードサービスセンターを、マレーシアに設置し、国ごとに仕様が違うシステムを統合し、プロセスまでグローバルで統一しました。M&A(合併・買収)を進めても、システムと問題なく統合できる現在の体制を確立するまで、実に10年の歳月を費やしてきました。

日置:損益計算書(PL)で事業部の業績を見ることの多い日本企業では、資本コストを加味して評価することのハードルは結構高いです。その上、「資本コスト10%以上で、はじめて価値を出したことになる」というのは、厳しい基準ですね。

入山:「ワンカンパニー」を実現するための全社統一のシステム構築に、徹底的に金・時間・労力をかける。こうした、戦略を行動にまで徹底的に落とし込む「有言実行の経営」こそ、BASF流というわけですね。
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文=山本隆太郎 写真=マーティン・ホルトカンプ

この記事は 「Forbes JAPAN No.36 2017年7月号(2017/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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