トランプケアの「犠牲者」数、テロ死者の50倍に

米各地で、抗議の声が上がっている。(Photo by Drew Angerer/Getty Images)

米議会予算局(CBO)は、米上院の共和党指導部が起草した医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案、通称「トランプケア」が成立すれば、2018年までに1500万人の米国人が新たに医療保険を失うと予測している。この数字は2026年には2200万人まで膨れ上がる。

これは何を意味しているのだろう? こうした数字から人々の健康への具体的な影響(死亡率など)を判断することは容易ではない。そこで本記事では死亡率に的を絞り、トランプケアの与える影響を実際の状況に置き換えて考える。

米ニュースサイトのボックス(Vox)によると、この法案が成立すれば、現在から2026年までの間に9・11同時多発テロ犠牲者の5〜9倍に達する人数が毎年の死者数に加算される。つまり、今後9年間トランプケアの影響で命を落とす人数は、過去16年間に過激派のテロで死亡した米国人の少なくとも50倍となる。

果たしてこれは、私たちが目指す姿なのだろうか? 私たちはヘルスケア(医療)から完全に「ケア(思いやり)」を消してしまって良いのだろうか?

中には、保険と死亡率の関連性を疑問視する声もある。一部の識者はフォーブスを含む各メディアで、保険と死亡率の関係を完全に否定するか、あるいはほとんど関連性がないと熱心に論じてきた。

しかし、彼らは間違っている。医療保険に加入していれば死亡リスクが顕著に低下すること、未加入者は病気がちで短命なことは、科学的見地から明確に示されている。

米医学誌『Annals of Internal Medicine』に先日掲載された論文は、保険に未加入だと死亡率が上昇すると結論付けた医学研究所(IOM)の調査(2002年)に触れている。だがこれ以降、さらに研究は進んだ。同論文では保険と死亡率の関係をより強く裏付ける最新の証拠をまとめており、さらに医療保険は死亡率だけでなく心身の健康増進効果もあるとのことだ。

米医学誌『The New England Journal of Medicine』にも、保険と死亡率の関係についての最新研究結果を概観した論文が掲載された。同論文の結論とCBOの発表した数字を組み合わせると、1500万人が無保険者となった場合、少なくとも1万8000人の米国人が共和党の政策により死亡する計算になる。
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編集=遠藤宗生

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