サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、バーレーンなど中東の9か国は6月、カタールとの国交を断絶した。その理由は、アラブ諸国の一部がテロ組織に指定しているイスラム組織「ムスリム同胞団」をカタールが支援していることだ。また、カタールはイラン政府の影響を過度に受けているとも指摘されている。
しかし、これら(断交の理由)は、同地域のより重大な問題の一部にすぎない。背景にあるのは長年にわたって続く宗派間の対立と、経済発展を競い合う各国間の摩擦が強まっていることだ。
カタールとの断交を宣言したサウジアラビアやUAEをはじめとする各国は、カタールとの国境(陸路・海路・空路の全て)を封鎖。自国内に滞在するカタール国民には、国外退去を求めた。
また、各国はカタールに本拠を置く衛星テレビ局アルジャジーラと大手放送局BeINの放送許可を取り消し、両社のウェブサイトを遮断した。いずれも地域の主要な放送局であり、アルジャジーラが各国のニュースを主に扱う一方、BeINは中東地域で唯一、サッカーの英プレミアリーグとスペインのラ・リーガ、ワールドカップなどの決勝トーナメントの放送権を取得している。
W杯予算を半減
カタール政府は当初、ワールドカップ開催に向けて2000億ドル(約22兆5800億円)規模のインフラ投資を行う計画だった。だが、世界的な原油・ガス価格の値下がりを受けて今年4月、その予算を40~50%削減すると発表した。
一方、米格付け会社ムーディーズは先ごろ、「湾岸諸国との対立から生じている経済・財政的リスクに基づき」、カタールの格付け見通しを「ネガティブ」に引き下げた。
こうした中で、カタールに進出している欧米企業の一部や、ワールドカップ関連事業に携わる英ザハ・ハディド・アーキテクツなどの各社は、すでに緊急対応策を練り始めたと報じられている。各社は近い将来、カタールと周辺諸国のいずれの側に付くか、立場を明確にしなければならないと考え始めるのかもしれない。
そして、それはFIFAも同様だ。ワールドカップ開催への影響のためだけではない。欧州各国のリーグやチームの買収・スポンサー契約を通じて、湾岸諸国から流れ込む巨額の資金のためでもある。
カタールの政府と財界は、制裁によるサプライチェーンや輸送ルートの混乱に備え、確実に対策を講じている。問題は、これらに現時点でどのように対応するかということだ。そしてまた、ワールドカップの開催直前に現在と同じ状況に見舞われた場合、そのときにはどのような対応を取るかということだ。カタールにとって、これらは2つの、異なる問題だ。