電気自動車(EV)とハイブリッド車(HV)への大掛かりな移行を明確に打ち出したのは、大手自動車メーカーではボルボが初めて。さらに、その実現を目指す時期は間近に迫っている。2019年モデルの設計にはすでに着手しており、来年には生産を開始、下半期には発売の予定だ。変化のペースが遅い自動車業界においては、切迫感を伴った改革だといえる。
ボルボのこの計画について、詳細はまだそれほど多く明らかにされていない。ボルボブランドのトラックを今後どのように扱うかについても、今のところ不明だ。だが、2010年に吉利が買収したボルボが新規株式公開(IPO)を目指していることは、すでに知られている。上場計画について、近く新たな情報が公開されるとの見方もある。
ボルボがEVのみを扱う米テスラの後に続くことができるとすれば、全車種をEV・HVにするという新たな方針は、同社のIPO実現を後押しするものとなるだろう。また、確立したブランドであり、マーケティングや流通にも安定したシステムを築いているボルボは今後、時価総額でテスラと競い合う存在になる。
ボルボはそのほか、これまでテスラを支援してきた規制や税制、法律の面でのEVメーカー向けのさまざまな優遇措置について、自社が対象となることにも期待を寄せているはずだ。
課題は多い
ボルボは今回の決定により、都市での走行に適した「アーバンカー」ブランドを目指すことになる。EVは現在のところ、長距離の移動や険しい地形での走行に適した車とはいえない。
ボルボのEVは、すでにテスラが設置している充電スタンドを使用できるものになるのだろうか? あるいは、高速道路沿いに新たに充電ステーションを設置していく計画なのだろうか?車での平均的な移動距離が米国に比べて短い欧州でも、ボルボのEVやHVが山岳地帯の走行に対応可能なのかどうか、疑問は残されている。
自動車メーカー各社が、EVの生産に移行したい考えであることは明らかだ。消費者も投資家も、内燃機関によって生み出される公害やスモッグ、騒音とは距離を置きたい。ただ、EVは実は多くの点において、内燃エンジンと同様に「環境に優しくない」。これは、メーカー各社にとってはあまり知られたくない事実だ。
バッテリー生産はエネルギーを大量に消費するほか、環境に有害な物質を使用する。さらに、充電するにはどこかでつくられた電気が必要だ。化石燃料の消費量を抑え、公害対策に協力しているように思えることは、私たちの気分を良くする。だが、同時に私たちは、バッテリー製造や電力生産の方法を自分たちでは変えられないことも、覚えておく必要があるだろう。
EVを大量に生産・販売するにはまだ、技術面での改善が不可欠だ。だが、ボルボは顧客を熟知しているはずだ。同社の顧客の大半が都市部での利用を希望する人たちなら、恐らく今回の計画は、素晴らしいものだといえるだろう。一方、車で走ることの自由を重視する人が多いなら、長期的にはこの戦略は、無謀だったということになる可能性もある。