ここに限らないが、軽井沢には美味しいレストランがたくさんある。だが、どんなに美味しい店も冬場は閑古鳥が鳴く。避暑地と知られる軽井沢だけど、冬場の軽井沢もとても魅力的なので、それが常々残念に思える。
そこで僕は提案したい。軽井沢には別荘がたくさんある。その持ち主である資産家の皆さんの趣味を極めたような、パブリックな美術館をつくったらおもしろいのではないか。絵や宝飾品、古美術はもちろん、たとえばワイン、ギター、車、時計、靴など、個人の高級コレクションを別荘で展示するのである。
もしくは、若手の美術家30人を集めてひとりずつ別荘に宿泊させ、一夏かけた制作物を秋から冬に一気に展示する。「軽井沢アートキャンプ」と称し、観光客は軽井沢に点在する別荘の一角にある小さな美術館をめぐっていくのだ。ちょっと楽しいと思いませんか?
もしくは、軽井沢町が新しく美術館を建て、キュレーターが展示のテーマを決め、先の資産家たちからコレクションを借りるのでもいいかもしれない。やはり飾るための“舞台装置”は重要である。軽井沢大賀ホールが魅力的なのは、誰もが「この舞台で演奏したい」「このホールで美しい音楽を聴きたい」と思う規模と風格を兼ね備えているからだ。
美術館も同様、「その場に行きたい」「自分のコレクションを並べたい」と思うものでなくてはならない。そのためには「自治体が建てて、資産家が参加する」というかたちがいちばんいいだろう。
あと、コレクションのレンタル料は軽井沢町の別荘に関する固定資産税が割引されるなどのシステムをつくっておく。大人の高級コレクション展示だけではなく、子どもたちにそれぞれの宝物を借りて展覧会を開催するのもいいかもしれない。
「宝物」という響きには、人をワクワクさせる力があるのだから。軽井沢がさらに文化的なリゾート地となり、冬場の楽しみが増えたなら、いうことなしである。
軽井沢にワインと食の博物館を
アメリカでは、自分だけ潤っている資産家は野暮の極み。自分を育てた街、世話になった街に、誰もが恩返しをする。「カリフォルニアワインの父」と称されたロバート・モンダヴィは、2001年、ナパにワイン・食・アートに関する博物館「Copia」をつくった。僕は03年ごろに訪れたのだが、広大な敷地にはギャラリー、劇場、教室、レストラン、図書館などが点在していた。
訪問客はここでワインのつくり方を見学したり、階段式の教室でシェフによる料理の講義を受け、その料理を食べたりできる。野菜とハーブの畑もあって、僕は初めて畑から抜いたばかりの泥つき人参をかじった。古代の食を感じた瞬間だった。
大人ばかりか、小学生〜高校生なども対象にした素晴らしい博物館だったが、財政難で08年閉鎖。15年に全米一の料理大学CIAが買収して再オープンしている。「Copia」とはラテン語で「豊かさ」「美味しいものがたくさん」という意味だそうだ。このコンセプトはまさに軽井沢にピッタリだと思うのだが、「軽井沢Copia」をつくろうという気概ある方はおられませんか?
【連載】小山薫堂の妄想浪費 過去記事はこちら>>