本来、ダイヤモンドはその美しさと太陽光の下で放たれるうっとりするような色合いに価値があった。しかし、現代では「ダイヤモンドは高価だ」という事実が価値を生んでいる。
ダイヤモンドの色や輝きは主に「光の分散」、つまりダイヤの中で太陽光が屈折してさまざまな色に分離されることで生まれる。ダイヤを動かして少し光の方向を変えるだけで、違う色に光って見えるのはそのためだ。
今では人工石の中にも、天然ダイヤよりも高い分散率を誇るものが存在する。最も有名なものはキュービックジルコニアだ。本来の定義では天然のものより「美しい」ことになるはずだが、こうした宝石は「色が多すぎる」としてあまり評判が良くない。
なぜダイヤモンドよりも美しい宝石に需要がないのだろうか? 最も一般的な理由は、キュービックジルコニアが安価なことだ。キュービックジルコニアの婚約指輪では、愛のために大枚をはたく意欲を示せない。ダイヤモンドの価値は、その価格にある。
近年、人工ダイヤの製造は進化を遂げ、優れた人工ダイヤが「天然ダイヤ」の半額以下で買えるようになった。そのため宝石商は、天然ダイヤの証しである細かな傷を探すのだ。
私に言わせれば、これは完全にばかげている。繰り返しになるが、ダイヤモンドはもはやその美しさではなく、その値段こそが価値だと思われるようになった。そして、ダイヤの希少価値を維持しているのは、市場を厳格に制御するダイヤ商人たちなのだ。
意識の高い層はジルコニアの婚約指輪を選ぶ
私が関係者から聞いた話では、ダイヤのカルテル(企業連合)以外の個人が天然ダイヤの新鉱脈を掘り当てることが時折あるが、その場合、カルテルは掘り当てた本人に対し、大量のダイヤをそのまま市場に出さないように求めるという。
本人がそれに反してダイヤを市場に出すと、カルテルは色や傷などが似通ったダイヤを市場に大量投入する。そうすることで、同様の型のダイヤの価値を意図的に下げるのだ。
私がカリフォルニア大学バークレー校で光学を教えていたときは、大ぶりのキュービックジルコニアを教室に持参し、学生らに婚約するときは高価なダイヤの指輪に「無駄に」資金を使わず、代わりにキュービックジルコニアの指輪を渡して、教養と知性の高さをアピールしてはどうかと提案した。今までに数人の元学生から、これをまさに実行したとのメールを受け取ったことはうれしい限りだ。
真珠の価値はカキの中に真珠の種を仕込む養殖法が確立されてから、大きく下がった。これと同じことがダイヤモンド市場でも間もなく起きると私は予測している。ダイヤの製造コストはこれから下落し、先祖代々引き継がれてきた宝石の金銭的な価値は消失する。残るのは、感情的な価値だけだ。
また、ダイヤコーティングの蒸着技術も急速に進化を遂げている。近い将来、ダイヤでコーティングされた傷のつかないガラスや調理器具など、さまざまな製品が登場するだろう。これからは、多くのダイヤモンドが安値で取引されるようになる。