小さな島から始まった、日本の漁業の「イマ」を変える取り組み

鮮魚を船上で箱詰めし直接販売する「鮮魚BOX」

山口県萩市大島──人口総数710人(2017年5月末時点)の小さな島では、いま漁業が大きな盛り上がりを見せている。右肩下がりの状況が続いていた漁業の就業人口は、ここ数年で増加。大卒や帰国子女など10名以上が漁業に就くなど、見事、V字回復を果たした。

島内に起きた、新たなムーブメントの仕掛け人が坪内知佳だ。2011年に任意団体「萩大島船団丸」を設立。水産庁の調査によれば、生産・加工・流通を一体化させる漁業の“6次産業化”に取り組む漁業者が1割弱しかいない中、いち早く漁業の6次産業化に着手。鮮魚を船上で箱詰めし直接販売する「鮮魚BOX」の製造・販売、そして高級干物「船上一夜干し」と「寒風一夜干し」の製造、販売の事業を展開している。

偶然、萩市にやってきた

坪内が萩市大島にやってきたのは6年前、2011年のこと。きっかけは“偶然”だった。同市の出身でもなければ、特別強い思い入れがあったわけでもない。

「結婚を機に偶然、移り住むことになっただけなんです(笑)。ただ住んでみたら、すごく良い場所だな、と。今でも隣近所で世話を焼き合う『五軒組』の文化があるなど、100年前の古き良き日本が残っている。また、萩市で生まれた子どもにとっては、ここが“生まれ故郷”なんですよね。自然と思い入れが深くなっていきました」(坪内)

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そんな折、東日本大震災が発生した。萩市に直接的な被害があったわけではないが、坪内はニュースなどを通じて東北の漁業、そして漁師に甚大な被害が及んでいるのを知った。同じように漁業が収益の柱となっている萩市にとって、対岸の火事とは思えないことだった。

「東日本大震災の被害を見て、『私たちにもできることはあるかもしれない』と思いました。そこで、山口県漁協大島支店に所属する、まき網漁船の3船団でグループを結成し、何かやってみることにしたんです」(坪内)

こうして、「萩大島船団丸」が立ち上がった。

最初は“コンサルティングしか”やらないつもりだった

「最初、現役の船長からは “コンサルタント”として関わってほしいと言われていました。そのため、萩の高品質な魚をブランド化し、顧客に届ける事業アイデアを提出したんです」(坪内)

漁船の船長は漁業のプロだが、経営に関しては全くの素人。坪内が提出した事業アイデアは手つかずの状態が続いていた。何から始めればいいのか、具体的に何をすればいいのか、彼らには分からなかったのだ。

そこで坪内に白羽の矢が立ち、船長たちから、「代表をやってくれないか?」と依頼された。坪内は考えた末に、「私が考えたアイデアだし、上手くやれるのではないか」と思い、代表就任の決断を下した。


「萩大島船団丸」の代表を務めた坪内知佳。2014年に法人化し、GHIBLIを創業。

ただし、坪内に漁業の経験はない。代表に就任してからはジャージ姿で、現場に出向き、漁師とコミュニケーションをとったり、販路を開拓したりする日々が続いた。時には漁師とバチバチに言い合いをすることもあったという。

「『直販のモデルは無理だ』と言われましたし、鮮魚を箱詰めする際にも『なんでこんなことしなきゃいけないんだ』と言われました。また彼らはガラケーが当たり前。LINEを使ってもらうにも3年かかりましたよ……(笑)」(坪内)

萩市大島のビジネスモデルを全国へ

漁師からの声にも耳を傾け、丁寧に説明を続けていく。これを継続していった結果、漁師からの信頼も少しずつではあるが、獲得することができた。

そうした変化に呼応するかのように、「萩大島船団丸」の事業も成長。立ち上げたばかりの頃は0件だった販路が数年で100件に増加。それに併せて出荷量も右肩上がりで増えている。

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「立ち上げたばかりの頃、漁師はみんな自分たちのことしか考えていなかったのですが、数年経ったら、周りのことも考えるようになって。この事業を全国に水平展開しよう、という考えになっていったんです」(坪内)

坪内は立ち上げから3年が経った2014年に「萩大島船団丸」を法人化。株式会社GHIBLIを創業した。現在は、萩市大島のビジネスモデルを全国に水平展開すべく、日々、奮闘している。

文=新國 翔大

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