トランプ流で大統領の椅子を狙う「インドネシアのメディア王」

トランプ(左)ハリー(中央)ハリーの妻リリアナ(右)


ハリーはいつものように会話を牛耳り、私を試すように、トランプがどうやって選挙に勝ったのか、勝利した地域、そのほか米国に関する質問をしてきた。

「だれが『ジ・アプレンティス』を引き継いだのかな?」

彼は自分が番組のホストを務めるインドネシア版「ジ・アプレンティス(編集部注:同番組はトランプがホスト務め、君はクビだ!(You’re fired!)の決め台詞で知られるリアリティ番組)」について思案しながら尋ねてきた。

ビジネスを成功させた究極の調停者という自身のイメージをインドネシアに植え付け、最終的に大統領になるところを想像していたのだ。彼は、世界最大のイスラム教国であり、第4位の人口を抱え、GDPでは16位のインドネシアにおいて、トランプ同様に反エリート主義を掲げて権力の座に就こうとしている。

トランプのビジネスパートナーに

トランプとハリーの共通点は、生い立ちにまでさかのぼる。ハリーの父親は、ジャワ東部の港町スラバヤで、トランプの父親と同じく建設業を営んでいた。ハリー自身はオタワのカールトン大学で金融を学び、卒業後は故郷でトランプと同じように父親から借りた資金で会社を興す。

5000ドルの資金を元手に金融仲介業を始めたのが1989年。1年も経たないうちに売上高約2400万ドルの会社に成長させた。アジア金融危機が始まる直前の97年にMNCグループとして上場し、金融危機を利用して、企業を安値で買収していった。

その後もハリーは猛烈な勢いでMNCを拡大し、自身が「黄金時代」と語る上場後の数年間に、10億ドル近くを投じた取引を重ねた。テレビ局を4つ買収し、人気タレントを発掘・プロデュースするタレント養成事業を開始。才能があっても名声と財産を勝ち取るのが難しい階層化社会のインドネシアでは、タレント発掘番組がヒットすることに目をつけ、インドネシア版の『Xファクター』と『アメリカン・アイドル』をスタートさせた。

MNCはインドネシアのゴールデンタイムで40%の視聴率を確保し、同国で最も人気のある10番組のうちの5つを放送している。2005年から毎年「ミス・インドネシア」美人コンテストを主催している。13年には「ミス・ワールド」も主催した。

トランプとビジネスパートナーの関係になったのは、13年にバリのニルワナ・リゾートと、西ジャワ州スカブミ県リドの不動産を、それぞれ2億ドルで購入してからのことだ。リゾート開発における提携相手を探す中で、最終的に声をかけたのがトランプ・オーガニゼーションだったのだ。「どう考えても、トランプには最高級のイメージがあるからね」と、ハリーは語る。

15年の合意で、トランプ一族が「トランプ」ブランドとしてホテルとゴルフ場を運営し、別荘とコンドミニアムに名前をライセンス付与することが決まった。

ニルワナ・リゾートの価格設定は、元々一泊100ドルから200ドルだったが、2年後に再オープンする「トランプ」ホテルでは600ドルから3000ドルを想定しているという。また、リドのリゾートにはプロゴルファーのアーニー・エルスの設計によるゴルフ場や、1キロ平方メートルのテーマパークの計画もある。20年の完成までに両リゾート合わせて20億ドル近い投資を行う予定だ。

ハリーに連れられ、バリで開発中のリゾートの30倍はある、リドの“ビッグプロジェクト”を見学した時には、競合リゾートを引き合いに出して、「もっとずっとビッグ」になると豪語していた。
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編集=フォーブスジャパン 翻訳=中島早苗 写真=ジャメル・トッピン

この記事は 「Forbes JAPAN No.36 2017年7月号(2017/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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