日本の「ビーントゥバー」先駆者が経営で大事にする2つのこと

山下貴嗣 ベース代表取締役(ミニマル代表)

NY発・チョコレート界の新潮流「ビーントゥバー」を日本でいち早く広めたMinimal(ミニマル)。「新しい文化を創造したい」という代表の山下貴嗣に、普段の心がけやものづくりの現場で大切なことを聞いた。


「Bean to Bar(ビーントゥバー)」とは、カカオ豆(bean)からチョコレート(bar)になるまでのすべての製造工程を一貫して手がけたチョコレートのこと。ミニマルでは、世界中から集められたカカオ豆の個性を生かし、カカオ豆本来の味わいや香りの表現に徹底的にこだわって製造しています。お酒やコーヒーとの相性もよく、男性のお客様も5割近くいらっしゃいます。

もともと僕はコンサルタント会社に勤務していました。仕事は充実して楽しく、いい時間とキャリアを積み重ねてきたのですが、やはりコンサルティングは当事者にはなれない。プロジェクトの達成はすごく嬉しいけれど、半歩遠い。

それで「30歳からは好きなことと、やりたいことと、意味あることが重なる仕事をライフワークにしよう」と決めました。

そんなときに知り合ったのが、ミニマルのチョコレート職人である朝日将人です。彼から教わって初めて食べたビーントゥバーの味は衝撃だった。その感動が忘れられず、世界中を回って、生産から製菓までを研究。一念発起してチョコレートメーカーを起業しました。

工房と店舗は渋谷・富ヶ谷と銀座、白金高輪の3拠点あり、約30人のスタッフがいます。当然ですが、朝日を中心にしたものづくりに集中する職人チームと、僕を中心にしたビジネスを回していく経営チームでは、価値観がまったく違います。

たとえばビジネスでは、好き嫌いにかかわらず仕事は当然“やるべきこと”。でも職人には、ものづくりに直接関わらないことでやりたくないことはモチベーションが下がるという人が多い。僕が未熟だったのですが、「新しいチョコレート文化を発信していこう」と思ってスタートしたのに早くも頓挫するかも、という危機を迎えたのです。

そんなときに友人に勧められて読んだのが、鈴木敏夫さんの『ジブリの哲学』。宮崎駿と高畑勲という天才に対し、プロデューサーの鈴木さんがどう働きかけているのかが綴られていました。もちろんそこに戦略はありますが、ベースは2人の天才に対する愛と尊敬。これは自分も同じだと気づき、その後の自分の考えと行動を変えることができました。

あとは最近、社員旅行先の群馬・水上温泉で高校時代からこれまでの軌跡を全員に話してもらいました。「自分史」の共有です。仕事において大切にしている価値観ややり方の共有をすることで、さらに風通しが良くなったと思います。
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構成=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN No.35 2017年6月号(2017/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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