デジタルを武器にした「損保の逆襲」

SOMPOホールディングス 櫻田謙悟 CEO代表取締役社長

まずは波紋を呼んだ本音トークを紹介したい。

SOMPOホールディングスの社長になる前、櫻田謙悟は「昔、あの会社は保険会社だったよね、と言われたい」と発言(保険の仕事を否定するのかと誤解された)。常務時代、役員会では「保険業は構造不況業種です」と明言(代理店さんががっかりするじゃないかと諭された)。

同業の者たちが眉を顰めるのは、そこに真実が含まれているからだろう。櫻田はこう話す。

「人口減少の社会で保険の市場は伸びません。このまま保険料をいただいて保険金を払うだけの事業でいいのかという危機感がずっとありました。一方、繊維や鉄鋼など構造不況業種と言われた業界でも、蘇った企業はたくさんあります。それを言いたかったのです」

さらに櫻田の危機アンテナが反応したのは、社長に就任する直前、2015年5月にシンガポールで開催されたシンポジウムでモデレータを買って出たときだ。テーマはビッグデータ。櫻田はパネリストの一人、グーグルのインド人幹部にこう言った。「できれば保険業には参入しないでほしいですね」。

軽口まじりの本音にグーグルの幹部はニヤッと笑い、「いまは保険会社を顧客にしていたほうが儲かる」と返した。

その笑顔を見た櫻田は、「その気になれば参入できるということだ」と反応したのだ。

グーグルのようなデータサイエンティスト集団が参入すれば、保険の大前提である「大数の法則」が崩れるだろう。保険の加入者を増やせば、事故などの発生確率は一定値に落ち着く。しかし、グーグルのような企業がビッグデータで個人を分析する技術を導入すれば、大数の法則が崩れる。

新たな波の襲来を感じ取った櫻田が選んだ道は、守勢ではなく攻めへと転じる戦略「安心・安全・健康のテーマパーク」である。

「保険業は何かあったときの最後の手段。しかし保険で救済する以前に、安心、安全、健康などたくさんのサービスがあればいい。日常のなかでお手伝いできることがあるのでは、と思ったのです」

その武器となるのが、デジタルだ。

「デジタルを道具ではなく、ビジネスそのものにする」として、CDO(最高デジタル責任者)に、三菱商事出身でシリコンバレーでベンチャーキャピタルを運営していた楢崎浩一を抜擢。ビッグデータの第一人者で大学教授のトーマス・H・ダベンポートを顧問に据えた。シリコンバレーに事務所を開設し、「キャッチボールをして意思決定を早くする」ため、新宿の本社にデジタルラボを設置した。
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文=藤吉雅春 写真=佐藤裕信

この記事は 「Forbes JAPAN No.36 2017年7月号(2017/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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