デジタルを武器にした例が、安全運転支援サービス「スマイリングロード」だ。走行データを収集してビッグデータ解析を行うことで、導入企業全体で事故件数が約20%減少。また、ナビアプリを開発し、事故多発地点をアラートする。こうして安全運転の度合いを診断して、自動車保険料の割引率を決めるのが、国内初のテレマティクス保険である。
「安全運転を促進して事故が減れば、その結果、保険料は下がります。事故が減ると、保険金の支払いも減る。ウィンウィンになります」と、櫻田は言う。
また、参入した介護事業について、こう言う。「2025年には65歳以上の3人に1人が軽度も含めた認知症になると言われています。解決策を提供しないといけませんが、まだ誰も答えを出せていません」
櫻田は介護施設を回ると、職員たちから、「心が折れるときがある」という声を聞かされた。高齢者たちからは感謝されても、その家族からの苦情をうけるときもあるからだ。センサーやロボットを使うことで、入居者の負担軽減につながるとともに、ロボットと人間の仕事を分けられれば、苦労が多い職員を守ることにもなる。
保険業にはない発想が求められるなか、冒頭の本音の話になると、櫻田は真顔で「私の変人ぶりが加速したのは、損保と関係ない職場に出向していたから」と言う。
「マニラのアジア開発銀行に出向中、毎晩8時まで仕事をしていたら、インド人の上司に呼び出されました。褒められると思ったら、『8時までかかる仕事を与えていない』と怒られた(笑)。文化の違いには刺激を受けてきました。若い人たちに言っているのは、自分の仲間と違う人たち、外国人、特に先進国ではない国の人たちと付き合いなさい、ということ。ひとりで考えていてもダメなんですよ」
櫻田謙悟(さくらだ・けんご)◎1956年、東京都出身。早稲田大学卒業後、78年に安田火災海上保険に入社。2005年、損害保険ジャパン執行役員金融法人部長。12年、代表取締役社長に、15年には代表取締役会長に就任。また同年に、グループCEO代表取締役社長(現職)。