ここ最近で「看護情報学者」の需要が急速に増えている。従来の看護業にシステム・分析・デザインの専門知識と組み合わせたこの職業、平均給与は10万ドル(約1100万円)を超える。需要増の背景には、医療分野でテクノロジーが爆発的に普及したことがある。
今や大半の病院が医療記録の電子管理システムを導入しているが、システムを導入する際、ただ数人のエンジニアを送り込むだけでは、全てが円滑に進むとは期待できない。
また、テクノロジーを通して医療の向上を目指す非営利組織HIMSSの情報工学担当副社長ジョイス・センスマイアーは、従来のIT従事者は看護の視点を持たないため、命に関わる技術的な過ちを防ぐことができず、システム導入後の管理業務には適さないと指摘する。そこで登場するのが、看護情報学者だ。医療ITシステムの取り扱いと、分析・調査の実施がその仕事だ。
電子医療記録システムへの移行は、医療従事者の働き方を劇変させた。看護情報学者は、電子記録を使用するプロセスの設計・保守を行い、看護師や介護士の時間を節約する方法を模索するとともに、システムを徹底的にテストする。例えば、患者の脈拍や呼吸などの生命兆候が心臓モニターによって正しく記録され、そのデータが正しく電子記録システムに送信されるようにしなければならない。
また、病院が実施する研究のプロジェクト管理も担当する。米国での医療は「価値に基づく医療」への移行が進んでいる。検査をいくつこなしたかではなく、患者が回復したかどうかによって医師の報酬を決定するという考え方だ。これを実現するためには、病院側が密接に、そして体系的に、患者の治療への反応を評価する必要がある。看護情報学者はこの調査を支援するのだ。
看護情報学者という職業は真新しいものではない。センスマイアーによると、電子記録が病院で使用され始めた1990年代初頭には、すでに米国看護師協会(ANA)によって専門職として認められていたという。センスマイアーは初期の看護情報学者の一人で、その分野の先駆者となった。
この分野はそれから爆発的な成長を遂げ、今では全ての病院で少なくとも1人は看護情報学者が雇用されているとセンスマイアーは考えている。HIMSSが最近行った調査では、対象となった医療機関の3分の1が最高看護情報責任者(CNIO)の職をもうけていた。CNIOの職務は、看護情報学者の補佐を受けながら医療ITシステムを監督することだ。
看護情報学者は病院だけでなく、大学や医療技術系スタートアップでも求められている。誰が病気になるかを予測し、対費用効果の高い治療の実現を目指すテック企業ケンサイ(KenSci)では、看護情報学のディレクターを採用している。
看護情報学者になるためには、看護の学位とプロジェクト管理のスキル、データの理解と分析能力が必要だ。センスマイアーによると、看護の学士を取得した後、看護師として実務経験を積んで臨床環境を理解するのが最も良い流れだ。その後、医療あるいは看護情報工学の修士課程(主要な大学の大半で取得可能)を修了すれば、CNIOになるにも十分な学歴となる。
こうしたプログラムはフルタイムで2年間要するが、代わりに情報工学の認定を1年かけて取得することもできる。修士号がないとおそらくCNIOレベルにはなれないものの、認定があれば中核となるスキルセットはそろう。