キャリア・教育

2017.06.26 08:30

「がんばらない経営」で成長を続けるケーズデンキの社員第一主義


社員を大事にする先にある、本当の「お客様第一」

残業、ノルマをなくせば業績が上がるのか。もちろんそうではない。ケーズデンキはグループ理念として「本当の意味での『お客様第一』のためには、1.従業員、2.お取引先、3.お客様、4.株主の順番で大切にすることが重要」としている。それはつまり、「お客様はもちろん大事ですが、社員を大事にすることでお客様対応の質も上がる、という考えの会社です(販売、女性)」ということだ。

「ノルマがないので、お客様に無理な押し売りをせずに、ご案内販売できるのは評価できると思う(販売、男性)」

「客として利用していた頃から、店舗内の雰囲気がよくお客様の為を考え真剣にサポートしてくれる姿に感銘を受けた。販売金額の目標はあるが、達成できなくてもそのことについて叱責されることはないため、よりお客様に親切に対応することができる(販売、男性)」

その他にも、会社の強みとして「丁寧な接客とサポート力」「顧客満足度優先の接客販売で、固定客の確保に強み」を挙げる社員の声もある。そもそもノルマや目標は「がんばる」ために設定されるわけなのだから、容易に達成できるわけがない。ましてその先に未達による責任が伴うのだとしたら、がんばりは「無理」に変わり、結果として最適ではない接客を生んでしまう原因ともなる。

「転勤しても他の店からわざわざ買いに来てくれたお客様は本当にありがたかった。接客に感動したのは初めてだと言ってくださり、お店から買ってるわけではないんだよ、お兄ちゃんから買ってるんだよ、と言われたときはわざわざ来てくれたことの嬉しさで、丁寧にやっていてよかったと思える(主任、男性)」

家電販売の業界においては、競合にネットショップも加わり、ポイント還元や価格競争による顧客争奪戦は熾烈を極める。そんな中、目に見えない「丁寧な接客」によって顧客の心を掴もうとするケーズデンキは、いわば常に「販売店」の原点に向き合い続けていると言えるのではないだろうか。

がんばらないことにだって課題はある

残業なし、ノルマなし。社員が無理せず働いて、業績も右肩上がり。一見何の問題も無いように見えるが、光があれば影が伴うのが世の常である。

「実績や行動力のある社員とそうでない社員とで明確な給料の差がないので、やる気のある社員がその現実に気付き、違和感を感じることがあるとすれば、出来る人こそ辞めていく会社なのではないかと思います。出来る人は辞めるか、お店を良くするために昇格を待つかのどちらかになるかと思うので、その点は将来性に不安があります(販売、女性)」

「実績が大きく給与に反映されるわけではないので、バリバリ仕事をして、評価され、収入も増やしたいという人には向いていないかと思います(販売、女性)」

ノルマがないということは、それだけ評価も難しくなる。数字のように明解ではない分、人によっては不公平さを感じることもあるだろう。

「売らなくても何も言われないが自己成長型の企業のため意識して行動しないと成長しないし、結果役職にも付きづらい(販売、男性)」という、社員一人ひとりの自律、自己成長が求められる企業において、貢献度の高い社員を流出させないことは最重要課題であるといえる。ちなみに、ケーズデンキの離職率は業界平均の3分の1だという。

今年創業70周年を迎えたケーズデンキは、他社が住宅やリフォームなど事業を拡大する中、家電一筋の郊外型店舗を貫いている。競合との棲み分け戦略ともとれるが、新事業への参入も、出店コストの高い都心への進出も、そこで利益を出すためには社員に無理をさせることになるだろう。ならば、自分たちが無理なく丁寧な接客を行える土俵で顧客満足度を最大限に引き上げ、生涯にわたる「お得意様」を獲得していく──ケーズデンキの「無理をしない」方針は、ブレがない。

理念経営は、一朝一夕でできるものではない。長年にわたって築き上げてきた「がんばらない経営」というオンリーワンの哲学を武器に、是非ともこの家電販売戦国時代を勝ち抜いてもらいたい。

文=恵川理加

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事