ビジネス

2017.06.25

日本一働きたい会社のトップに聞く「自律型社員」の育て方

LIFULLの井上高志 代表取締役社長(photograph by Toru Hiraiwa)


創業から6年経った03年、同社はリンクアンドモチベーション社が実施する従業員モチベーション調査を初めて実施した。この調査から、組織の強みや弱み、社員が抱える不満が浮かび上がってきた。

翌年の04年から05年にかけて、井上は当時在籍していた全社員と数カ月にわたって議論し、経営理念をリニューアルした。利他主義を社是とすることになったのも、このプロジェクトの結果だ。現在、全社員が社是や経営理念、各人の行動指針となるガイドラインが印刷された「ビジョンカード」を常に携帯している。

「ガイドラインを体現しているかどうかは、上司、同僚、部下からの360度評価でしっかりチェックされます。とはいえ減点評価ではレッテル貼りになりかねないので、あくまでも加点方式での評価を行っています。このような制度も社員全員を巻き込んで設計されたものです」

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経営理念の組織への浸透を重視するライフルでビジョンをテーマに社員が話し合う「ビジョンシェアリング」

企業理念までボトムアップでつくり上げ、エンゲージメントを高めていることが窺える。しかし、このようなライフルの経営方針が、意思決定を遅延させることはないのだろうか。

「たしかに人事評価ひとつとっても時間も手間もかかります。部署異動希望がすぐに実現できない場合は、『半年だけ待ってくれない?』などと丁寧に説明しますから、コミュニケーションコストはかなり大きいとは思います」

それでもトップダウン型経営を行わない理由はどこにあるのか。

「日本のような成熟市場では、トップダウンでは中長期的に収益性を維持できません。強烈なリーダーシップを持った創業者の多くが事業継承で苦戦しているのは、トップダウンが『人』への投資にはならないからなのだと思います。トップが全知全能の神のように正解を示すのは無理な話で、家族主義的な一体感のもと自律的に個人が動く、そんな生物的な組織こそが未知の変化に対応しやすい、そのように考えています」


井上高志◎LIFULL代表取締役社長。リクルートコスモス(現コスモスイニシア)、リクルートを経て、95年にネクストホームを創業。97年、ネクスト(現LIFULL)を設立し、現職。

文=柳瀬 徹 写真=平岩 亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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