跡を継ぎたいと思ったのは「獺祭のうまさ」に気づいたから

旭酒造の桜井一宏社長(左)、麵屋武蔵の矢都木二郎社長(右)


桜井:ただ一つ、悩んでいることがあって……。今まではカンニングをして100点をとることができましたが、時代が変わるにつれてカンニング通りの解答では答えが合わなくなってきたんですよ。

矢都木:そうですね。お客様第一主義っていう軸はそのままにするとしても、先代と全く同じやり方では通用しなくなってくるでしょうね。

桜井:「カンニングなしで会社を変革していくのは大変そうだな」と、若干足がすくんでいます。

矢都木:麵屋武蔵は、商品を守り続けるのではなく、時代に合わせて進化させているんですよ。新しいものを提案してブランドを前進させる。それが、僕たちの後継者の使命だと思っています。

──後継者として成功されたお二人から見て、いま気になっている業界や「改革に携わってみたい」と思う業界はありますか?

矢都木:美容室業界はおもしろそうだなと思います。美容室のサービスって、もっと工夫できそうな気がしませんか? サービスの内容によっては、今より高価格でも、お客様が増えるかもしれない。……って言っても、そんなに簡単な話ではないと思うんですけどね。いろんな歴史やルールがあるでしょうし、業界の人には「こっちにはこっちの事情があるんだよ」って怒られてしまいそうですけどね(笑)。

桜井:規制もあるでしょうからね。でももし矢都木さんが改革をされるならどんな風に変えるのか、聞いてみたいです。具体的には、どんな施策を考えているんですか?

矢都木:3つあるんですよ。1つ目は、コンピュータグラフィックの応用。例えば3Dスキャナーで頭の形を撮影すると、「頭の形がこうだから、こういうふうにカットしますね」って話せるじゃないですか。それをデータとして保存すれば、新人でも8割型までカットすることができ、仕上げを指名された美容師さんが行うことができます。こうすると、指名が多い人気美容師さんは一度に多くのお客様をカットすることができ、効率が上がると思います。

2つ目は、顧客データの活用。さっきの3Dデータに加えて、毎回顧客の髪型を写真に収めておけば、前回からどんなふうに変わったのか、これからどう変えていくのか、お客様と一緒にプランを立てられますよね。

3つ目は、雇用体系ですね。美容室業界って、ラーメン屋と同じでちょっと古い雇用体系を守り続けているんですよ。徒弟制度みたいな。美容学校との絡みもあって難しいかもしれませんが、お店に立つようになったらどんどん実践経験を積んだほうがいいんじゃないかと思います。

桜井:矢都木さんから見ると、改善の余地ありなんですね! 経営者になると、どこに行っても仕事としての可能性を考えてしまいますよね。

矢都木:すぐ仕事に結びつけちゃうんですよ(笑)。桜井さんは気になる業界ありますか?

桜井:私はアパレル関係に魅力を感じますね。田舎に住んでいるのでインターネット通販をよく利用するんですが、ビジネスとしておもしろそうだなと思うんです。

例えば最近流行りのオーダースーツ。インターネットだと裾上げ一つとっても何センチなのかわからないじゃないですか。でも一度どこかで測ったデータを共有できれば、通販でも思い通りのスーツを作れると思うんですよね。もしかしたら、私の知らないところで既に改革が始まっているのかもしれませんが、もしないのならやってみたいなと思います。

矢都木:なるほど! 自分が何かサービスを受けると「なんでこの業界はこれしかないんだろう」って思うことありますよね。逆に言えばラーメン業界も「ここが変だよ、ラーメン業界」っていうのがあるかもしれません。

桜井: 日本酒業界も、絶対にあると思います。だからこそ、私たちのように先代の意思を継いだ後継者が、新たな視点で改革を進めていかなくてはならないんですね。[第2回に続く]


桜井一宏◎旭酒造代表取締役社長及び四代目蔵元。2009年まで常務取締役、その後2016年9月まで取締役副社長として海外マーケティングを担当。米国、香港、シンガポール、フランス等でのイベントやセミナーを通じて獺祭の海外売上を促進し、12年間で28倍にした。2016年10月より代表取締役社長に就任。四代目蔵元となる。

矢都木二郎◎麺屋武蔵 代表取締役社長。埼玉県生まれ。城西大学卒。大学卒業後、いったん一般企業に就職するが、24歳で独立開業を目標に麺屋武蔵に転職。以来、麺屋武蔵一筋。27歳で上野店店長に昇格。店の運営・経営を任される。2013年11月11日、先代社長からバトンを受け2代目の代表取締役社長に就任する。

インタビュー=谷本有香 構成=華井ゆりな 写真=藤井さおり

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