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11年11月11日からの3日間、昼はスタートアップの起業家によるピッチコンテストやテクノロジー、クリエイティブ(ゲームやアニメ、アートなど)についてのトークショー、夜はクラブイベントを、彼らはぶっ通しで行った。だが、イベントを始めた当人たちはまったく予想もしていなかった変化が、その後、福岡の街に起きることになる。

きっかけの一つとなったのが、彼らがスピーチを依頼した若手市長・高島宗一郎と、孫泰蔵の出会いだった。

VC、起業家として日本のスタートアップシーンに大きな影響力を持つ孫は、隣の佐賀県出身。以前から村上や橋本とも交流があり、今回の運営にも携わっていた。高島と孫は、このイベントを通じて知り合うことになった。そして、翌年のイベントで高島はスタートアップを福岡市の街づくりの中心に据える「スタートアップ都市宣言」を行うのである。

高島はイベント前年の10年11月に当選したばかり。当時、福岡の街づくりのテーマを模索していた。同時期にマイクロソフトやアマゾンの本社があるシアトルを視察した彼は、福岡を「スタートアップの街」にするというアイデアに関心を抱いていたところだった。

「そんなときに出会った明星和楽のメンバーに、私は強いエネルギーと可能性を感じたんです」

以後、高島は矢継ぎ早にスタートアップ支援の施策を打ち出す。スタートアップカフェもその流れの中で始まった。「明星和楽」の第1回は興行的には赤字に終わったものの、それは表に見える結果以上の成果を福岡という街にもたらしたのだ。

明星和楽は13年にはロンドン、14年には台湾でも開催された。台湾では約5000人を動員するなど、その知名度も上がっていった。村上の設立した「サイノウ」の目的の一つも、このイベントの運営支援を行うことだ。

1本の「TEDトーク」で一致団結

彼はその歳月を振り返るとき、初回の「明星和楽」の準備中に橋本がみなに見せた、一本の動画を今でも思い出す。それはアメリカの起業家であるデレク・シヴァーズの「社会運動の作り方」と題されたTEDトークの動画で、ある音楽フェスの芝生で上半身裸の男が踊っているものだ。

「最初は冷ややかに見られていた男性の周りに、徐々に人が集まり始める。そして、ある程度の人数が一緒に踊り始めると、今度は参加していない方がかえって恥ずかしい雰囲気になっていくーというものです。橋本さんが『これをやりたい』と言ったとき、僕たちは始めるイベントのことが実はよくわかっていなかった。でも、その動画を見て、みんなの気持ちが一致団結したような気がしました」

4人の男たちを中心に思いつきから始まった明星和楽は当初、周囲のほとんどに「できっこない」「そんなイベントをやる意味がわからない」と反対されていた。だが実際にやってみると、「自分たちの福岡をもっと楽しい街にしたい」という思いに賛同する人たちがいた。数を重ねるごとに、集まる人たちは増え、一つの「ムーブメント」になった。

村上は言う。

「僕らの目的は福岡のスタートアップを増やすことだけではありません。いろんな選択肢を増やすことです。『サイノウ』の事業の中でも、若い世代がいったん立ち止まって考え、いろんな道を模索できるきっかけもつくっていきたい。僕たちが福岡で楽しいと思える仕組みをつくりたいんです」

明星和楽というイベントが多くの人たちを巻き込んでこられたのは、土台となるコミュニティや仲間の存在が福岡にもともとあったからだ。「その土台が強固であれば、たとえスタートアップのブームが過ぎ去っても、次のムーブメントが福岡から生まれるはず」と村上は続ける。そのときに彼らが語る言葉もまた、「自分たちの好きな福岡を、もっと楽しい場所にする」であるはずだ。

文=稲泉連 写真=宇佐美雅浩

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