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2017.06.25

スタートアップ都市・福岡の源流となった伝説の3日間

左から市江竜太、橋本正徳、村上純志、山田ヤスヒロ。旧「スタートアップカフェ」にて。取材日の翌週、大名小学校跡地の「FUKUOKA growth next」内に移転。

時は2011年。「日本版サウス・バイ・サウス・ウエスト」をやろうと集まった4人の男たち。「楽しいから」と始めたイベントは、彼らの想像をはるかに超え、次第に大きな渦となっていく──。

地下鉄・天神駅から徒歩5分ほど、TSUTAYA3階に「スタートアップカフェ」という福岡市の創業支援窓口があった。今年4月12日に旧大名小学校の跡地に移転したこのカフェは、無料での起業相談、人と企業の出会いの場の拠点として、2014年10月にオープンしたものだ。同市には以前から同様の相談窓口があったが、「スタートアップ都市」を施策の目玉とする高島宗一郎市長のもとで装いを一新。相談数はここ数年で延べ約2000件にまで増えたという。
 
そうした福岡市の「スタートアップ」の盛り上がりを支え、その流行をつくり出してきた中心人物の一人が、コミュニティ運営や人材育成などを行うNPO法人「AIP」の理事を務め、昨年、自身の会社「サイノウ」を立ち上げた村上純志だ。
 
福岡の若い起業家たちの間で、今も「福岡スタートアップ」の流行の原点として語り草になっているイベントがある。「テクノロジーとクリエイティブ」をテーマに、11年から毎年開催されている「明星和楽」ー村上はこのイベントを発起した一人である。
 
彼が明星和楽の運営に携わることになったのは、08年頃に福岡を代表するベンチャー企業・ヌーラボの橋本正徳と再会したのがきっかけだった。デジタルハリウッド福岡校に通い、システム管理者を経験した後、市内のIT企業にプログラマーとして就職した村上は当時、4年間の東京での出向を終えて福岡に戻って来たばかりだった。

「その頃の福岡では、周囲に住むプログラマーの勉強会が非常に盛んだったんです。特にリーマンショックの前後は受託の仕事だけでは厳しいというムードもあって、チャレンジしようという人や企業が増えていました」

流れを変えた市長と孫泰蔵の出会い
 
村上は会社の仕事で、AIPのIT系の研修に出入りしていた。彼らが運営する「AIPカフェ」での勉強会へ参加すると、そこに渦巻いていた熱気に圧倒された。

「お金をもらえるわけでもないのに、自分の技術を発表し合って議論を重ねている人たちがこんなにたくさんいるんだ、って。得体の知れないパワーを感じたんです」
 
村上はその後、AIPに転職する。そして、彼が惹きつけられたその勉強会の中心にいたのが、ヌーラボの橋本だった。

「僕もエンジニアだから、同じような人たちと議論し、酒を飲んで話すのが楽しかった。最初はただそれだけだったんです」と橋本は言う。だが、彼を中心とするコミュニティは500人規模になっており、各々が新たな勉強会を開いたり、クラブイベントを開催したりという広がりを持っていた。いわば様々な企業や立場の人たちが緩やかに繋がる場を、橋本はすでに福岡の街につくり出していたのだ。
 
明星和楽の企画もまた、この橋本によって提案されたものだ。

「アメリカのオースティンで開催されているサウス・バイ・サウス・ウエスト(音楽や映画、最先端のテクノロジーなどを融合させ、Twitterが注目を浴びるきっかけにもなったフェス)が当時、僕の周りで話題になりつつあったんです。ただ、遠くてなかなか行けない。それなら、自分たちでやってみよう、と」
 
その呼びかけに応じたのが村上、デザイナーの山田ヤスヒロ、プログラマーの市江竜太という仲間だった。

「僕らの思いは今も昔も『楽しいからやりたい』『自分たちの福岡をもっと楽しみたい』というもの。街を変えたいなんて高尚なことを思っていたわけではないんです」と4人は口をそろえる。
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文=稲泉連 写真=宇佐美雅浩

この記事は 「Forbes JAPAN No.35 2017年6月号(2017/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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