一方で敗者には、街なかにある従来型の食料品店などが含まれる。営業利益率が非常に低いアマゾンと、これらが競争を続けることは不可能だろう。そして、それとはまた別の敗者となるのが、最低賃金で働くレジ係などだ。アマゾンのテクノロジーがその存在を不要にし、従来型の小売チェーンにおいてすでに見られる(人員削減や事業規模の縮小の)傾向を加速させるからだ。その過程で、最低賃金の時給15ドル(約1665円)への引き上げも「不適切」なものにされてしまうだろう。
現在のところ、アマゾンがホールフーズをどのように再編するかは公表されていない。だが、昨年公開されたレジ精算不要のコンビニエンスストア「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」を紹介する動画が、今後を予測するヒントになるかもしれない。アマゾン・ゴーでは、レジでの支払いはテクノロジーによる計算と課金に置き換えられる。
ただし、アマゾンの広報担当者は、「買収に伴う人員削減計画はない」と述べている。「アマゾン・ゴーのために開発したテクノロジーを採用し、ホールフーズ店舗のレジ係の仕事を自動化する予定はない」という。アマゾン・ゴーの主なコンセプトはレジ前での行列をなくすことによる買い物の所要時間の短縮であり、人件費の削減ではないとされているのだ。だが、それでもアマゾンのマージンの薄さを考えれば、従業員1~2人の削減も利益の増減に大きく影響を及ぼすはずだ。
レジ係の従業員たちにとってさらに問題となるのは、アマゾンと戦うためには他の小売チェーンも同様に、レジをなくす必要に迫られるということだ。上述した小売業界に見られる傾向を、さらに加速・拡大させることになる。
米小売り大手のウォルマートとターゲットはすでに、最低賃金で働く労働者に代わってその業務をこなすテクノロジーを導入。マクドナルドもまた、タッチパネル型のセルフ注文機の導入を開始している(ファストフード市場も競争が激しい。少なくともマクドナルドのフランチャイズ店は、アマゾンと同様に営業利益率が低い)。
当然ながら、こうした動きは時給15ドルの最低賃金を目指す活動にとって、悪いニュースだ。実際には時給の引き上げ圧力が、前出の各社やその他の小売業者がいまやテクノロジーより「割高」になった労働者を、機械と置き換える動機になってきたといえるかもしれないのだ。
最低賃金の引き上げを義務付けることは、短期的には低賃金労働者の給料を増やすことにつながる。だが、同時にそれは長期的には、そうした労働者を失業者の列に加えることになる。労働者の機械への置き換えを、企業に促すことになるためだ。