ビジネス

2017.06.19

経営改革の根幹は「メガトレンドの腹落ち」にある

写真=マーティン・ホルトカンプ


島田:トレンドとコア・バリューの双方向性が欠かせません。シーメンスでは、マネージングボードメンバーは、各々事業や地域、機能の担当領域を持っているものの、全体の戦略を立てることが役割。徹底的に議論していることもあって、どの役員と話しても基本的に同じことを話します。

日置:各人、責任分野を持ちながらもそれに囚われず、あくまでも全社にとっての利益を最優先に、8名という少数のマネージングボードメンバー全員で議論するからこそ、最後は全員が腹落ちしているのですね。

島田:彼らにとって、メガトレンドが、自分ごとになっていなければ、事業に反映させることはできません。ましてや社内に浸透させるなど不可能です。「ピクチャー・オブ・ザ・フューチャー」には、組織を動かす社内キーマンも参加しています。彼らを介して、シーメンスの従業員35万人全員に落とし込まれていきます。また、メガトレンドを読み、長期戦略を立てたら、次はその戦略から外れた事業分野を売却していく。

日置:メガトレンドが戦略に落とし込まれ、マネジメント層が「変化」に対してスピード感を持って、事業売却などの経営資源の再配分などの具体的な行動を実行している。変化することが合理的と判断し、素早く動いたドイツ系企業と動けない日本企業。この違いが、グローバルでのプレゼンスの差を生み出していると言えるでしょう。

入山:その上、「スピード感がある」といっても、トレンドになりつつある目先のものに飛びつくのではなく、長期的な目線で見極めた未来のトレンドに向けて、大胆に舵を切る。シーメンスの成功は、今でいう「インダストリー4.0」に該当するメガトレンドを察知し、20年以上前から仕込んでいたからでしょう。

島田:社内では「インダストリー4.0」のトレンドはうまく掴んだという評価がされていますが、メガトレンドの予想が全て当たっているわけではなく、失敗した戦略があるのも事実です。一方、最も成功したのは洋上風力発電事業です。エネルギー問題のトレンドを読んだ上で、風力発電の関連企業を買収して、事業を開始しました。その後は、ジェネレーター内のギアやスマートグリッド(次世代送電網)から、スマートグリッドで集めたデータを分析するIoT(モノのインターネット)プラットフォームまで、自社のインフラを活用してシナジーを起こしていきました。その結果、シーメンスは洋上風力発電分野で世界トップ企業になりました。

日置:メガトレンドに基づいた戦略の賜物ですね。入山さんがよく引用される「知の深化と探索」の理論で考えれば、日本企業は社内にある既存の技術を伸ばす「知の深化」での成功体験が強い。だからこそ、既存の技術の延長線上にない分野への「知の探索」にはなかなか乗り出せず、非連続な将来の“飯の種”を察知することが難しくなっている。

島田:日本企業は、これまでの積み重ねで書くことのできる「技術ロードマップ」の策定には長けていると思います。しかし、メガトレンドとは社内の持つ技術とは無関係のところからやってきます。また、技術ありきでトレンドが決まるのでもありません。例えば、「インダストリー4.0」という言葉の中には、IoTのような具体的なツールの名前は含まれていません。「メガトレンドがまずあり、その後から必要な技術が決まる」というように、自社が持つ技術に固執せずに、発想の転換が必要であると思います。

入山:自分たちの持つ技術やコア・バリューと向き合い、トレンドにも目配せをする。「知の深化と探索」を両立させる経営を実践しているわけですね。
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文=山本隆太郎 写真=マーティン・ホルトカンプ

この記事は 「Forbes JAPAN No.35 2017年6月号(2017/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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