ビジネス

2017.06.22 08:00

「注文をまちがえる料理店」のこれまでとこれから

6月3日、4日にプレオープンした「注文をまちがえる料理店」。実行委員のプロフェッショナルの方々と(筆者中央)

「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトを立ち上げました。このちょっと不思議な名前のレストラン。6月頭の2日間、都内某所で、たった80人ほどのお客さんを招いただけの、ひっそりとしたプロジェクトになる……はずだったのですが、想像をはるかに上回るとんでもない反響を呼ぶことになりました。
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ヤフー!の急上昇ワード(ツイッターのリアルタイム検索)で1位を獲得すると、テレビ各局、週刊誌、新聞からの取材依頼が相次ぎ、さらにはアメリカ、中国、シンガポール、イギリス、スペイン、ポーランドなど海外メディアからもこのプロジェクトを自国で紹介したいとの連絡が殺到しました。

これまでさんざん取材をしてきた自分が、まさか取材をされる側になろうとは思いもよらず、おたおたするばかりの毎日。メディアに身を置きながら情けない話なのですが、こういう体験はなにぶん初めてのことで、なかなかきちんとした対応もできないままの状態が続いています。

そこで今日は、この場を借りて「注文をまちがえる料理店」について、きちんとお話をしてみようと思います。
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そもそも「注文をまちがえる料理店」ってなんだよ、というところからお話したいのですが、これは一言でいうと「注文を取るスタッフが、みんな“認知症”のレストラン」です。認知症の人が注文を取りにくるから、ひょっとしたら注文を間違えちゃうかもしれない。だから、あなたが頼んだ料理が来るかどうかはわかりません。でも、そんな間違いを受け入れて、間違えることをむしろ楽しんじゃおうよ、というのがこの料理店のコンセプトです。

なんでまたテレビ局のディレクターである僕が、そんなヘンテコな料理店を作ろうと思ったのか。それは今から5年前に、ある「間違い」を体験したのがきっかけでした。

当時「プロフェッショナル仕事の流儀」という番組のディレクターだった僕は、認知症介護のプロフェッショナル、和田行男さんのグループホームを取材していました。和田さんは「認知症になっても、最期まで自分らしく生きていく姿を支える」ことを信条にした介護を30年にわたって行ってきた、この世界のパイオニア。和田さんのグループホームで生活する認知症の方々は、買い物も料理も掃除も洗濯も、自分ができることはすべてやります。

僕はロケの合間に、おじいさん、おばあさんの作る料理を何度かごちそうになっていたのですが、その日の食事は強烈な違和感とともに始まろうとしていました。というのも、僕が聞いていたその日の献立は、ハンバーグ。でも、食卓に並んでいるのはどう見ても、餃子です。ひき肉しかあってない……けどいいんだっけ?

「あれ、今日はハンバーグでしたよね?」という言葉がのど元までこみ上げたのですが、うっと踏みとどまりました。「これ、間違いですよね?」。その一言によって、和田さんたちとおじいさん、おばあさんたちが築いているこの“当たり前”の暮らしが台無しになっちゃう気がしたんです。

ハンバーグが餃子になったって、別にいいんですよ。誰も困らない。おいしけりゃなんだっていいんです。それなのに「こうじゃなきゃいけない」という“鋳型”に認知症の方々をはめ込もうとすればするほど、どんどん介護の現場は窮屈になっていって、それこそ従来型の介護といわれる「拘束」と「閉じ込め」につながっていくのかもしれない。

そういう介護の世界を変えようと日々闘っているプロフェッショナルを取材しているはずの僕が、ハンバーグと餃子を間違えたくらいのことになぜこだわっているんだ、とものすごく恥ずかしくなった瞬間、「注文をまちがえる料理店」というワードがぱっと浮かんだんです。

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おっ、これはいいかもしれない。頭の中に映像がぱーっと駆けめぐりました。僕はお客さんで、ハンバーグを注文する。でも、実際に出てきたのは餃子。最初から「注文を間違える」と言われているから、間違われても嫌じゃない。いや、むしろ嬉しくなっちゃうかもしれない。これはかなり面白いぞ。

そしてなにより、「間違えちゃったけど、ま、いっか」。認知症の人も、そうでない人もみんながそう言いあえるだけで、少しだけホッとした空気が流れ始める気がする……
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文=小国士郎

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