家族こそが最大で最難関のプロジェクト[南谷真鈴 #5]

南谷真鈴(写真=藤井さおり)

日本人最年少でエベレスト、世界七大陸最高峰の登頂を成し遂げた南谷真鈴。自身2冊目となる著書「自分を超え続ける」(ダイヤモンド社)を3月に出版した彼女の新たな冒険へのチャレンジ、次なる目標とは──。
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──ここまでお話を聞いていると、南谷さんはとても繊細で思慮深い方であることがわかります。しかし、多くの人は南谷さんを強靭な体力と精神力を持った強い人、たくましい女性だと思っている人もいるかもしれない。世界中で「南谷真鈴」という像が一人歩きしている部分もあるはずです。それについては、どのように受け止めていますか。

南谷真鈴(以下、南谷):私は自分がやりたいと思ったから山登りをしました。やりたいことをやった結果、人々から認められた。いわば、ただ私であるというだけで世界中の人々が私を受け入れてくださることに、とても感謝しています。

ただ、注目されることが増えるのに比例して、自分の意図しない方向で自分の言葉が伝わってしまうことが増えたのも事実です。そういうときには、なぜそれが起きたのか理解することに努めます。なぜ私は人からこう思われたのだろう、次はどうすれば誤解を防げるだろうか、と。

──自分に対するネガティブな意見が聞こえてきたときには、心の中でどのように対処していますか?

南谷:ネガティブな意見も、「確かに、そういう見方もあるなぁ」と思いますね。なぜその人がそう思っているのか気になるので、真剣に聞くようにします。

人は一人で生きているわけではありません。いろんな人がいて、その中の一人として私がいる。何人か反対する人がいるなら、その“反対”に共感することも必要です。それを無視するのって、戦争の始まりと同じだと思うんです。

──人は、辛い状況から逃げたくなるものだと思います。自分と向き合う作業はとても苦しいものであって、「やっぱりそれができるのは、南谷さんが強い人だから」と思ってしまう人もいるかもしれません。特に、日本人はものすごく自信がないと言われています。この日本において自信を培うとしたら、どういうことが必要だと思いますか。

南谷:自信がなくてもいいと思うんです。数学と似ていて、ネガティブにネガティブをたすとポジティブになりますよね。それと同じように、あなたのネガティブな部分も見方や捉え方によっては絶対にポジティブに変えることができると言いたいですね。

日本人の自信のなさの原因は、日本の教育が一因でないかと思います。日本では、みんなが同じテキストを使って勉強をして、平均点が出されて…画一化した環境の中、同じものさしで人と競争することを強いられています。人と違うことを恐れるように教育されているんです。

──南谷さんは海外での生活も長く、比較的、日本よりも画一的でない教育を受けてきたと思うのですが、どのような教育が理想だと思いますか。

南谷:私は、今の日本の教育はひと昔前のものだと感じています。時代はどんどん変わって、そのうちAIが人間の仕事を奪うと言われている今だからこそ、もっと人間にしかできないこと、自分にしかできないことを追求していかなくてはいけない。それには、高校ぐらいから、個々の興味や専門性に特化した勉強を始めるべきだと私は思います。

私は子供の頃、ピアノとドラムとギターとマリンバをやっていたんです。芸術のクラスに通ったこともありました。音楽や絵を描くことによって、世界観が大きく変わりました。

芸術からは、自分の世界は自分で描くものなのだ、と学ぶことができます。それは人生も同じ。自分の人生は、自分で設計し、実現していくものなのだと考えられるようになりました。

──最後に、今後の目標を教えてください。

南谷:次の目標は、海でのプロジェクトを実現させることです。セイリングで世界中をまわり、児童養護施設にいる子供たちや起業家、自分と同世代で働いている人々など、さまざまな人と交流したい。

それよりも大きな目標は、自分の思いや生活を共有するパートナーを見つけることです。家族は一番難しい。だからこそ、かけがえのないものでもある。

自分の愛する人がいて、その人から自分も愛されて、その人と築いた家族を保つこと。それこそが、人として最もやりがいのある生き方であり、かつ、私にとっては最も難しいプロジェクトだと感じています。


南谷真鈴(みなみや まりん)◎1996年12月生まれ。2016年5月にエベレストに登頂し日本人最年少記録を更新、同年7月にはデナリ登頂を果たして7大陸最高峰達成の日本人最年少記録も更新した。2017年4月、北極点に到達し、七大陸最高峰と南極点・北極点を制覇したことを示す「エクスプローラーズ・グランドスラム」達成の世界最年少記録を樹立した。早稲田大学 政治経済学部 国際政治経済学科在籍中。著書に「自分を超え続ける」(ダイヤモンド社)など。

構成=吉田彩乃 インタビュアー=谷本有香

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