キャリア・教育

2017.06.30 08:00

何度も殻を破り、何度も生まれ変わる[南谷真鈴 #3]

南谷真鈴(写真=藤井さおり)

南谷真鈴(写真=藤井さおり)

1997年生まれの20歳。南谷真鈴の並外れた行動力とチャレンジスピリットはどこから生まれたのか。想像を超える苦しさの中で自身に向き合うことの意義とは―。

──南谷さんは多感な思春期を過ごされてきましたが、南谷さんと同じような経験をしたとき、非行に走ったり、うつになったりする若者も多いと思います。南谷さんが逃げたりせずに、あえて自分と向き合うことを選んだのはなぜだったのでしょうか。

南谷真鈴(以下、南谷):山登りの前は、瞑想に答えを求めていた時期もありました。私が16歳のとき、父と母の関係が悪くなり、家族がどんどん崩壊していきました。目の前が真っ暗になっていくようで、ますます自分がいるべき場所がわからなくなりました。

この悪夢から脱出しなきゃいけない。そう思って始めたのが瞑想でした。毎日6時間くらい瞑想を続けて、あるとき急に、スイッチが入ったような瞬間があったんです。瞑想の最中に光が見えたというか…ぱっと、暗闇の中から抜け出たような気分でした。悟りを得た、という感覚に近いかもしれません。

そのときに、自分はもっと強くならなければいけないと思ったんです。強くなって、私と同じように苦しんでいたり、さまざまな境遇にいる若者たちを導かなければいけないと。それが自分のミッションなのだと思いました。

両親がつけた「真鈴」という名前には、真実の道に人々を鈴で導ける人になってほしい、という願いが込められているそうなんです。その名前自体にもミッションを感じました。

人々を導くためには、まずは今いる真っ暗で何も見えない場所から這い上がって、自分のあるべき姿を見つけることが必要だと思いました。そのために、山登りをしたい、と。

──南谷さんは、山登りをしながら、どのようにして自分と向き合っているのですか?

南谷:山登りは本当に苦しいんです。途中で、何度もやめたくなるんです。一歩一歩踏みしめながら山を登っていく過程は、同時に、弱い自分の殻を何度も何度もぶち破って上にいくことでもあります。

だからこそ、山を登りきったときには別人になっている。その作業をするために、私は山に行くんです。自分の殻を何度も何度も壊して、ここまできました。

弱いのは誰でも同じです。それと同じように、誰でも弱い自分を乗り越えることができるんです。七大陸の山を制覇して私はそのことを確信しましたし、これからは他の人にこれを伝えていきたいと思っています。

──今、ご自身のことをどのように捉えていますか?

南谷:私が何者か、ということですか? 今20歳で、今後何をしていくかということを考えてはいるのですが、まだ私という人間が完成したわけではありません。まだまだ未熟です。今はまだ「南谷真鈴」という人間を作っていくプロセスの途中にいます。

少し話はそれますが、こうしてインタビューを受けることも増えてきて、肩書きを聞かれることも多くなりました。登山家かと聞かれることもありますし、「あなたは、いわゆる何でしょう?」と聞かれたりもします。

その度に私は、「自分にまだ肩書きを与えたくない」と感じるんです。肩書きができることによって、その枠の中に自分が押しとどめられてしまうような気がするからです。

自分ではまだまだ未熟だと思っているので、実はインタビューを受けるのも本当は恥ずかしいんです。なりたい自分になりきれていないのに、人前で話をするなんて、って思っています。[第4回に続く]


南谷真鈴(みなみや まりん)◎1996年12月生まれ。2016年5月にエベレストに登頂し日本人最年少記録を更新、同年7月にはデナリ登頂を果たして7大陸最高峰達成の日本人最年少記録も更新した。2017年4月、北極点に到達し、七大陸最高峰と南極点・北極点を制覇したことを示す「エクスプローラーズ・グランドスラム」達成の世界最年少記録を樹立した。早稲田大学 政治経済学部 国際政治経済学科在籍中。著書に「自分を超え続ける」(ダイヤモンド社)など。

構成=吉田彩乃 インタビュアー=谷本有香

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