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Forbes JAPAN 編集部 編集長


この文化がカヤックの経営理念につながる。「つくる人を増やす」という理念だ。「つくる人」の定義を、柳澤は各方面で語っている。

曰く、「自分の利益を優先することでは、いいものをつくれません。相手の立場になって深く考えてつくる人が増えると、それぞれの価値を尊重する社会が実現します」。だから、世の中に「つくる人」を増やしたいのだ、と。

カヤックの「サイコロ給」(社員が給料日にサイコロを振って、出た目の分だけ基本給に上乗せ)など、突飛さばかりがメディアで注目されるが、柳澤がやりたいことは先述の宗教者会議のように、「みんなで良くしたい」に尽きるだろう。

13年、手始めに「市議選を盛り上げよう」と、カマコンをスタート。投票率を上げるために、「投票に行ったら割引できる“選挙割”の飲食店」など、ふんだんに仕掛けを用意した。ところが、蓋を開けてみると、過去最低の投票率。落胆する者もいたが、この体験こそ大きな意味をもつ。彼らは結果より、人を巻き込むことに集中していく。

「カマコンのゲストには、地域活動をしている方を呼んで、抱えている課題をプレゼンしてもらいました。それに対して応援のブレストをしていく。すると、誰もがやる気になるし、手伝う者も増えていく。ブレストの結果をプロジェクトとして発表し、実行すると、さらに人が集まる。こうして、人が人を呼ぶ流れができていきました」

会社と地域のいい循環をつくる

15年、由比ヶ浜の海岸のマナーをどうにかしたいという声があがった。入れ墨を入れた者や飲酒をする者が増えて、子供たちが遊べないというのだ。

カマコンで解決策についてブレストするうちに、「子供たちが楽しく参加できるサンドアートをやったら」というアイデアが浮上。すると、カマコン参加者に芸大の彫刻科出身者がいるとわかり、大きな砂像をつくるプロジェクトに発展した。こうして、龍の上に平和の象徴の鳩が載った砂像が完成。

「それをお坊さんが見つけて、『これはすごい』と海岸法要をするようになり、最終的にはお札が入って仏様になってしまいました」と、柳澤は笑う。


カマコンの有志がつくった砂像「海のまもり鳩」。費用はカマコンが企画・運営するクラウドファンディング「iikuni」で調達した。

プロジェクトの最初の目的から離れたものの、結果に関係なく、多くの人が楽しんで参加する点に、カマコンの面白さと意義があるといっていい。大切なのは、そのプロセスと意識の変化なのだ。

柳澤が地域にブレストを持ち込んだ理由には、「会社の評価からの解放」という考えもある。仕事に成果と評価はつきものだ。会社で「あいつは仕事ができない」と見られても、ブレストで地域のことを自分事化して楽しめばいいじゃないか、というわけだ。

「それに」と彼は付け加える。「住環境で楽しくなれば、元気になって会社に行けます。いい循環になります」。だから、柳澤は最初からカマコンを鎌倉で終わらせようとは思っていなかった。企業が社員の地域参加をサポートし、相乗効果でみんなが元気になる。この仕組みがどの地域にもあれば、と彼は真顔で語るのだ。

2014年、カヤックは上場した。従業員数は250人を超え、4つのグループ会社を抱える。柳澤は次の狙いに移ろうとしている。地方に根づいた上場企業として、企業の力と地域の特性を組み合わせ、地方創生をどう絡めていくかー。

「やっぱり企業と市民のカマコン的なフォーマットは必要だと思うんですよね」と、柳澤は淡々と語り続ける。ブレストは決して新しい手法ではない。しかし、息吹が吹き込まれた「脳内インフラ」として、人と人がつながっていく。柳澤がつくったのは、全国をつなげる「目に見えないインフラ」なのかもしれない。

文=藤吉雅春 写真=宇佐美雅浩

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