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2017.06.14 07:30

インテルもヤフーも、なぜ企業は「鯖江市」を応援するのか?

左から福野泰介、竹部美樹、市長の牧野百男。眼鏡の町・鯖江で生まれたばかりのボストンクラブのウェアラブルデバイスの着脱機能つき眼鏡「neoplug(ネオプラグ)」を装着。

子どもからお年寄り、オバチャンまでが自律的にまちづくりに参加するには──東京帰りの若き女性が考えついた仕組みにいま、グローバル企業が目をつけ始めた。


昭和10(1935)年建築の「旧鯖江地方織物検査所」(写真)は、戦前、福井県鯖江市が人絹織物で栄えた歴史を示す文化財だ。階段を軋ませて2階に上がると、壁に場違いなグローバル企業の名が並ぶ。
 
SAP、intel、Lenovo、NEC。他にも、Yahoo!JAPANや伊藤園など大企業や、眼鏡フレームの生産で有名な町らしく、地元眼鏡店の名前もある。それら企業が、ここ、「Hana道場」を支援する。この道場は、ドイツ、シリコンバレーに次いで、SAPが世界で3番目に開設を支援したイノベーションのためのファブラボ(3Dプリンタなどの工作機械を備えた場所)なのだ。
 
なぜ人口7万人に満たない鯖江で? 意外に思われるだろうが、道場の運営責任者である竹部美樹自身も、「私なんかがダイレクトに社長さんたちに会えるなんて」と驚く。かつて彼女は地元にある実家の電器店を手伝う女性だった。それが今や、鯖江と企業をつなぐハブの役割を果たす。そのきっかけは、彼女が故郷に足りないものに気づいたことに始まる。
 
自分が何をしたいかわからなかったころ、竹部は思い切って東京で働いてみようと思った。27歳のときだ。都内のIT企業で働くうちに、彼女は入り込んだ未知の世界に衝撃を受けるようになる。

「IT業界では学生起業が当たり前で、ビジネスプランコンテストが開かれては、熱意ある学生たちが知恵や技術を競い合っていました。学生たちの口からビジネス用語が次々に飛び出すのを聞いて、面白いと思ったのです」
 
若者たちの熱気に触れるにつれて、彼女は故郷鯖江に思いを馳せるようになった。次第に彼女はこう思った。「私が経験した刺激を、地元の学生たちにも味わわせてあげたい」。

都会にあって地方にないもの。それは経験する機会であり、彼女は真剣にこう考え始めたのだ。「経験の差をなくしてあげたい」。

女子高生発アプリ「つくえなう!」

2008年、鯖江市内のあちこちに見たこともないポスターが貼られた。



市長の後援会が呆れたこのキャッチフレーズは、竹部による「鯖江市地域活性化プランコンテスト」の告知である。彼女は全国の学生にこう呼びかけたのだ。「本気でこれからの日本を背負うリーダーになろうと思うなら、日本が抱える難題、地域活性化にチャレンジしませんか?」。つまり、鯖江を活性化させるアイデアを練ってみよう、というわけだ。
 
何の縁もない町のために、学生が自腹を切って来るわけがないという声をよそに、全国から続々と優秀な学生たちが名乗りを上げた。竹部たちが書類選考と面接を行い、24人の学生市長を選抜。24人は市内の寺で合宿を行うと、市長の牧野百男や市の職員たちも手伝いに現れて、徹底して活性化の策を練ったのだ。
 
ショックを受けたのは、地元の学生スタッフたちである。都会の学生が、徹夜で鯖江のために知恵を絞っている。一体、今まで自分たちは何をやっていたんだ。ある学生は、竹部にこう呟いた。「恥ずかしいです」と。

「嬉しかったことは」と、竹部が話す。「参加した学生たちが、全国にコンテストを広げたことです。しかも、コピペではなく、その地域に合わせて、『高校生まちづくりアイデアソン』というオリジナルのコンテストが各地で始まったのです」
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文=藤吉雅春 写真=宇佐美雅浩

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