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Office 『W・I・S・H』代表 大阪経済大学経営学部客員教授


不治の病に自身や家族が苦しんだ結果から医学フォビアに陥っている状況も少なからずあるようだ。そうした現代医学ではいかんともしがたい病気や症状を患われた辛さや苦しみは、かつてがんを患ったことがある我が身と幾重にもオーバーラップするので、深く理解もできるし、同情もする。

基本的に私自身は、病気や障がいを抱える家族や当人に対して、本当に心からその人のためになると思うのであれば何を仰っていただいても構わないと考えている。

しかし、自閉症とワクチンを結びつけた情報やその拡散は結局のところ、病気に限らず自身の抱える不満やストレスを、如何ともしがたい症状を抱える他の誰かに転嫁して発散しているだけとしか私からは見えないのだ。少なくとも私と娘のためには何も役立っていない。

ワクチン繋がりでもう1点。かつて娘が心房中核欠損と診断され入院を余儀なくしていた頃(おかげ様で成長とともに今は心臓の壁に開いていた穴は塞がっている)、私は地元の高校で教員をしていた。その高校でインフルエンザが流行したときにはしばらくの間、娘との面会が謝絶になったことがあった。

万が一、私が小児病棟にインフルエンザを持ち込めば、娘だけでなく他のお子さんも重篤な状態に陥る可能性があるからだ。病院側の要請は至極真っ当で、言うまでもなく面会を控えることに同意した(とは言え、看護師さんに抱っこされた娘をガラス越しに見つめるだけで、そのまま帰るしかなかったあのときほど切ないことはなかったのだが)。

もちろん、インフルエンザなどの流行を完全に抑え込むことは不可能だが、ワクチンはより多くの人が摂取することで社会全体での効果が発揮されるものだ。

救える命を救うために

「ワクチンを打ったのにインフルエンザにかかった」「効果が疑わしい」という声もよく聞くが、インフルエンザ・ワクチンは毎年少しずつ違うワクチンを受けることで違うタイプの抗体が身体の中で出来上がり、その結果、様々な型のインフルエンザを予防していく……という根本的な情報が浸透していないために誤解されているようだ。

先述の小野氏曰く「免疫不全の人たちにとっては、どれだけ周囲の人たちがきちんとワクチンを受け、ウイルスを撒き散らさないでいてくれるかどうかが死活問題」だ。

必要以上にワクチン接種を忌嫌することは、本来予防できるはずの病気を予防できないだけでなく、その結果救える命も救えない状況になりかねない。そうしたリスクをもはらんでいる。

恐らく、最初に触れたような自閉症とワクチンを関連付ける内容は専門家からすれば、ばからしくて全く取るに足りない内容と映るのではないだろうか。誰も気にするわけがない、取り沙汰されるようなことがあっても、そのまま放っておけば早晩淘汰されるだろうと思われるかもしれない──。ところが実際には荒唐無稽な内容であればあるほど伝わりやすい側面があり、背びれ尾びれを伴って粘着的に情報が蔓延ってしまう場合が少なからずあるのが実情だ。

そこで最後に、お忙しいのは重々承知の上で医学や科学の専門家の方々へ。こうした偽情報を見かけられたら、たとえ1行でも2行でも構わないので、医学や科学業界の事情を知らない市井に向けて「それは違うよ」という一言とともに正しい情報発信をしていただけないだろうか。社会の中での知識の共有を切にお願いしたい。

文=岩本沙弓

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