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2017.06.10

台湾に新拠点、吉本興業・大﨑社長が明かすアジア戦略

台北の空港にて、報道陣に囲まれる渡辺直美(Photo by TPG/Getty Images)


「台北からスタートさせて、小さくて良いのでアジア各地にライブスペースというか小屋を作って行きたい。もちろん47都道府県にも離島にも」と大﨑氏は将来の展望を語る。

台湾を含め、アジアの6つの国と地域に吉本興業の芸人が日本から渡っている。漫才ボンボンのように各国で芸人が生活しながら、それぞれの国の文化を取り入れたネタを披露しているのだ。大﨑氏はアジア各地に吉本興業のコンテンツを発信する拠点を設け、それぞれの国に住む芸人たちが活躍できる舞台も整える、というプランを描いているのだ。

ただし台湾はアジア戦略の皮切りとして最適な地域であっても、中心となるわけではないと大﨑氏は言う。

「台湾を中心に広げるということはないです。台湾は台湾で。インドネシアはインドネシアで。メインランド(中国本土)はメインランドでやります。中心にするのは日本ですから。日本からアジアの全方位に広げるということです」

大﨑氏が描いているのは、短期的に利益を上げるためのアジア戦略ではなく、各国の文化に根付いた新しいお笑いの流れを地道に創造していく長期的な展望だ。それはあくまで、漫才ボンボンが台湾で漫才を広めようとしているように、日本のお笑いを核とした構想である。だからこそ〈47都道府県にも離島にも〉ライブスペースをつくる計画を持ち、日本の各地域に根ざしたお笑い文化の創造にも力を注ぐのである。

大阪をアジアのお笑いの聖地にする!?

アジアに新しくお笑いの文化をつくることで、吉本興業は将来的に、どのようにして利益を上げるつもりなのだろうか。今年の4月13日に、その答えのひとつが発表された。

吉本興業は日本国内で、海外からの観光客を想定した新たなエンターテインメント事業に乗り出しているのだ。吉本興業をはじめ、在阪テレビ局やエイチ・アイ・エス、電通、KADOKAWAなど12の企業と、クールジャパン機構が出資し、劇場が集まる文化施設を2017年度にオープンさせる計画である。場所は大阪市内を想定し、大阪城公園が有力な候補地に挙がっている。

内容は吉本興業が2014年から実施している世界のエンターテイナーを集めた「THE 舶来寄席」や、歌舞伎、殺陣、下駄タップ、イリュージョンなどを取り入れた、言葉を使わない「ノンバーバルバラエティショー」などを行なう予定だ。

アジアの中でも日本、さらに日本の中でも大阪を、エンターテインメントの中心地にしようと大﨑氏は考えているようだ。

「台湾だけではそんなに儲からない」と大﨑氏が語ったように、他のアジア各国も現状では、人口や政治の状況、経済規模を考慮すると、一国では簡単に十分な利益は得られないだろう。それでも発展目覚ましいアジア各国で、地域に根ざしたお笑いの文化を創造することに大きな可能性がある。

2016年に過去最高の2400万人を突破した訪日外国人の数は、今後さらに伸びると予想される。その多くがアジア各国からの観光客である。彼らが自国で吉本興業が手掛けるお笑いに親しむようになれば、日本を訪れた際、吉本興業のお笑いが根付いた“本場”の劇場でも楽しんでみたいという需要は高まるはずだ。その受け皿としても大阪にできる新たな文化施設は機能する。

世界中のミュージカルファンがブロードウェイを訪れるのと同じく、お笑いなら日本、その中でも特に大阪に行きたくなるという流れを、吉本興業はアジアにつくろうとしている。いわば大阪をアジアのお笑いの聖地にする計画である。その成否は長期的かつアジア全体という広い視野で見てこそ明らかになるだろう。

「大阪はお笑いの聖地」という意識がアジア全体で共有されれば、近い将来、大阪在住だとアジア各国の人たちに告げると、「何か面白いことやって」と言われるような時代がやってくるかもしれない。今でも日本の別の地域に住む人たちから、大阪の人間はそのように言われることがある。

アジア規模で同じ現象が起こったときこそ、吉本興業のアジア戦略が成功した証だ。

文=大迫知信

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