金融サービス会社の米コーナーストーン・キャピタル・グループが5月18日に発表した報告書によると、600万を超える雇用が「自動化により向こう数年内に消滅。小売部門の労働者の大部分が、新たな職に就けなくなるリスクにさらされている」という。
こうした指摘は「空騒ぎだ」と一蹴したい気持ちになるが、それではテクノロジー、特に人工知能(AI)に関するまさにリアルなトレンドを無視することになってしまうだろう。
実店舗へのAIの影響力
AIを利用した顧客関係管理(CRM)ソリューションを提供するセールスフォースは顧客向けに、新たなAI機能を含むEコマース関連ツールを提供している。その一つが、「プレディクティブソート」だ。エンゲージメントの見込みに基づきより正確に、あるいは有用な形で、検索結果を並び替えて表示する。
AIや機械学習を利用しているセールスフォースやその他のベンダーは、モバイル決済や一人ひとりに合わせたマーケティング、高機能の検索ソフトを通じた小売業の自動化の推進を目指している。ただ、これらはオンライン小売業者にとって有用なツールであるものの、実店舗型の小売店に最も重要な「店内体験」を改善することにはあまり役立っていない。
そして、店内体験は前出の報告書が取り上げている自動化機能、特に「セルフチェックアウト(セルフレジ)」機能によっても改善がなされていない。すでに導入から何年も経過しているにもかかわらず、問題の全てが解消するには至っていないのだ。買い物客の多くは依然としてセルフレジ利用せず、小売店は相変わらず、万引きや顧客からの苦情といった問題に直面している。
実際には「人」への投資が増加
米国では賃上げ圧力が高まっている。だが、そうした中でも、人間の労働力の代わりを果たす自動化技術の実現は、まだ遠い先の話だ。小売業者は自動化どころか、新たに導入された規則への対応や顧客体験の向上のために、従業員に対する投資を増やし始めている。
低賃金と従業員の待遇に関する低評価で知られる小売最大手のウォルマートでさえ、態度を一変させた。同社は2015年、米国内の従業員のために10億ドル(約1090億円)を投資する方針を発表。勤務スケジュールに従業員の希望を反映させるようにするなど、労働条件の改善に向けた取り組みを行うほか、賃上げや教育研修プログラムの提供などを開始した。そして、これらが実施されるとすぐに、同社の顧客体験に関する評価は大幅に上昇した。
ウォルマートに加え、ホームセンターのロウズや小売チェーンのターゲットといったその他の小売大手各社も、店員に代わるロボットの導入に向けて試験を実施中だと報じられている。だが、現実にはこうした各社の一連の対策は、ニュースのヘッドラインを飾るために考案されているもののように見える──コーナーストーン・キャピタルの報告書と同様に。
つまり、自動化に向けての対策は、研究開発という名前の「クリックベイト(ユーザーの関心を引いて閲覧者数を増やすための手法)」と同じということだ。