ビジネス

2017.06.07

「まず、遊びから」というアプローチの活用法

「6次元」での「連作ショートショート講座」。「俺もいつかは」と言いつつ、書かない人こそ、是非。

数年前に流行したゲーミフィケーション。遊びやゲームの要素を商品やサービスと結びつけて顧客をつかまえる。そのために射幸心を煽るなどゲームの中毒性に頼るものが多かった。遊びの価値が誤解されている──

これまでのゲーミフィケーションとは違うアプローチで、遊びの本質をビジネスに活用していく方法を考えてみることにした。



文系の人間ほど、理系のものが苦手という人は多いのではないでしょうか。

物質・材料研究機構(NIMS)は、金属材料および無機材質分野の研究を行う独立行政法人です。そのNIMSが物質や材料に興味を持ってもらうための入り口として公開している映像が面白いのです。「未来の科学者たちへ」という映像シリーズです。

例えば「見えないガラス」。ガラスと同じ屈折率になるように配合された混合油に、ガラスを入れると見えなくなるというもの。そのガラスと油を使った特別なピタゴラ装置が不思議な現象を次々と起こしていく。屈折率を伝えるための映像に遊び心が入り、観るものを釘付けにするのです。

物質や材料をただそのまま説明しようとしても理解してもらうのは難しいかもしれません。しかし、まずは興味を持ってもらおうということで、このような映像になっているのです。


NIMSの動画「未来の科学者たちへ」シリーズは必見。屈折率でガラスが消えて見える。

先ほどは理系の話でしたので、次は文系の話。荻窪の「6次元」で定期的に行われている小説のワークショップがあります。ショートショート作家の田丸雅智さんが実施している「連作ショートショート講座」です。専用のノートを使い、参加者は直前の人が書いた文章を読みながらその続きを書いていき、1つの物語をみんなで完成させていきます。原稿用紙1枚分の物語が15分ほどで次々と出来上がっていきます。

小説を書く、と聞いてしまうとハードルが高い行為に聞こえるのですが、このワークショップでは、遊びながら書くことによって、誰でも楽しい物語が書けてしまうのです。ワークショップ受講後、物語を書くのが病みつきになってしまったという人もいるようです。

このように一見難しそうな事柄も「遊びから入ってみる」ことによって、見え方が変わったり、取っ付きやすくなったりするようです。「遊び」と言うと、子どもっぽい、不真面目だ、など、なぜかビジネスからは遠いように感じる人も多いようですが、いえいえ、遊びには本来、人を惹きつける魅力があるはずなのです。

遊びを入り口にすれば、世の中の商品、サービス、あらゆるものに対する興味関心を高めることができるのではないかと考えました。これを「PLAY FIRST」と呼んでみることにしました。このPLAY FIRST、どのように活用できるのでしょうか。

例えば「防災訓練」。防災訓練がすごく楽しかったという人は少ないでしょう。それはそうです。訓練ですので真面目にプログラムが組まれていることのほうが多いわけです。では真面目な防災訓練を、遊びを入り口にして、より身になるものに変えられないでしょうか。そこでスポーツクライミングを取り入れることができないかと考えてみました。

大人になると、縦に身体を動かすことが少なくなるそうです。小さいころは木登りやジャングルジムで垂直に登るという縦の動きが普段の遊びの中にあるのですが、大人になるとこれが減ってしまう。

しかし、いざという時に縦の動きが必要になることがあります。水害で自宅の1階から入れず、2階から入らなければならなかったり。道路が塞がれていて塀を乗り越えてでも避難しなければならなかったり。クライミングという遊びの要素を取り入れることで、防災訓練はスポーツ方面から楽しくなるだけでなく、実際に役立つものに変わるかもしれません。
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文=大山 徹

この記事は 「Forbes JAPAN No.35 2017年6月号(2017/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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