ビジネス

2017.06.19

停滞するドイツ都市が「大企業に頼らず」成功した理由

ドイツ、ザクセン・アンハルト州ハレ市

人口減少、エリート人材不足、大企業依存ー日本の地方都市には問題が山積みだ。しかし、そんな問題を既に乗り越えた都市が、実はドイツに数多くあった。その中でも、日本が学ぶべき3つのモデルを紹介する。

第3回は、かつて「中小企業は数多くあるが新しい成長産業が生まれない」と評されていたザクセン・アンハルト州の都市、ハレ市の事例。


課題:中小企業は数多くあるが新しい成長産業が生まれない
モデル都市:ハレ
人口:約23万人
主な産業:ブナの木材資源を使ったバイオ産業
立地する主な拠点:フラウンホーファー研究機構バイオ研究所支部

ドイツでは、特に旧東ドイツ地域で人口減が目立つ。ザクセン・アンハルト州ハレ市も、旧東ドイツの都市だ。ハレには中堅中小企業が数多くあるものの、世界に打って出られる産業はない。それ故、停滞感が漂っていた。
 
世界に通用する強い産業を育てたい。その思いを持った中部ドイツ15社で結成されたクラスター組織は、州に広がるブナの原生林に目をつけた。ハレに近いロイナ市には、化学産業の集積がある。それらを結びつけることで新たにバイオ産業を起こすことを目指したのである。
 
ハレのクラスター組織は、戦略的に動いた。バイオ産業の育成には、域内だけでなく域外からも多くの企業に参画してもらう必要がある。そのためには「ハレ=バイオ産業」という認識を国内外に広めることが大切だ。その手段として選んだのは、ドイツが認定するトップクラスター制度。トップクラスターに選ばれると、補助金が出るばかりでなく、企業や研究者からの認知が一気に高まる。
 
ただ、ドイツ認定のトップクラスターは毎年5つしか選ばれない狭き門。そこでハレの地元クラスター組織は、まずフラウンホーファー研究機構のバイオ部門の支部を誘致した。欧州最大の応用研究機関であるフラウンホーファー研究機関。その支部があることが評価されて、見事にトップクラスターの認定を受けた。国を代表するプロジェクトとなったことで注目を集め、現在、研究開発が順調に進んでいるところである。
 
新しい産業を育成するとき、大企業を誘致すればいいと考えるのは安直だ。ハレでは地元のクラスター組織がまず地域の強みを見極め、目指す未来像を描いたうえで、戦略的に研究施設を誘致した。ローカルハブの構築は、一日にしてならず。長期的な視点が必要であることがわかる事例だ。

【関連記事】
第1回:レーゲンスブルク編
第2回:ハイルブロン編

神尾文彦◎野村総合研究所社会システムコンサルティング部長、公共プロジェクト室長、主席研究員。都市・地域戦略、道路・上下水道等の社会インフラ政策戦略、公的組織の改革等の業務に関わり、総務省「公営企業の経営戦略の策定等に関する研究会」委員をはじめ、国・自治体の委員を歴任している。

文=神尾文彦 構成=村上 敬

この記事は 「Forbes JAPAN No.35 2017年6月号(2017/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事