今年1月にラスベガスで開催された国際家電見本市で、ホンダが発表した2つのプロジェクトが来場者を魅了した。1つは、ナノテクノロジーにより3D表示されるカーディスプレー、もう1つは、顔の振動を読み取ることで高度な音声識別機能を実現した“光学的”なマイクだ。
いずれも、カリフォルニア州マウンテンビューにある「ホンダ・シリコンバレー・ラボ(HSVL)」から生まれたもので、ここでホンダの未来が形作られているといえる。
「イノベーションを起こすのに、何でも社内でやろうとするのは正しくない」と話すのは、HSVLのシニア・プログラム・ディレクターを務める杉本直樹だ。「オープンなコラボレーションこそが、カギとなるのです」
その言葉通り、ホンダは2016年末、グーグルを傘下に持つアルファベットの自動運転研究開発子会社「ウェイモ」との共同研究を協議中だと発表した。大半の自動車メーカーは、いつかグーグルに自動車産業を乗っ取られるのでは、という恐れから同社とは慎重に距離をとってきた。そう考えると、大胆な決断である。
1948年の創業以来、ホンダは自動車やバイクから人型ロボットまで、すべて自社開発にこだわってきた。だが、自動車業界はいま、AI(人工知能)やセンサー、アプリ、ライドシェアなどが主役を張る新時代に突入している。ホンダは安全かつ楽しく、渋滞に悩まされずに運転できるよう、ほかの車両や、道路や橋、建物に設置されたセンサーと通信する自動車を開発しようとしているが、単独ではとうてい実現できないのは明らかである。
そんななか、HSVLは革新的なスタートアップを2年間支援する「エクセラレータ(Xcelerator)」というプログラムを実施している。先述の“光学的”なマイクは、イスラエルのボーカル・ズーム社との共同開発で実現したものである。
ソフトウェア面にも力を入れ、たとえば駐車場やガソリンの支払いを車内で自動的に行えるシステムをVISAと開発中だ。
目標は、技術力はあるが退屈だというイメージがついてしまったホンダを活性化すること。杉本は次のように語る。
「もともとのDNAを回復し、ホンダ社員の右脳を刺激し、お客さまをあっと言わせるようなイノベーションを提供する道筋をつけるのが狙いです」