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2017.06.05 11:00

スキンケア用品で資産30億円 48歳主婦の「拡大しない」経営術

ティファニー・マスターソン(Photo by Monica Schipper / gettyimages)

不況真っただ中の2009年。テキサス州ヒューストンで4人の子供を育てるティファニー・マスターソンは、家計を支えるためにマレーシアの高級石けんを売る仕事を始めた。しかしすぐに、その石けんは肌荒れを起こすことが発覚する。それ以来、マスターソンは肌によりやさしい原料を探し求めるようになった。

「『敏感肌』と呼ばれる肌の多くは、実際は『敏感になった肌』です。飲み過ぎのせいで疲れた肝臓を、繊細な肝臓とは呼ばないですよね。肌は私たちが思っているよりも賢いのです」と、現在48歳のマスターソンは言う。

2012年、マスターソンは化学者の協力を得て、低刺激のスキンケア用品ブランド「ドランクエレファント」(Drunk Elephant)を創業した。ブランド名は、象が食べて酔っ払うことで知られる、アフリカ原産のマルラの実から採れるオイルを主原料に使っていることに由来する。多くのスタートアップと異なり、マスターソンには商品を世に出す前のテスト段階から30万ドル(約3300万円)を出資してくれる義理の家族がいた。その1年後、今度は兄弟が非公開額を出資し、代表取締役に就任した。

現在、ドランクエレファントは、コスメ専門店セフォラで最も売り上げが伸びているブランドの一つだ。美容液、クリーム、石けんを中心とした商品は、いずれもパラベン、合成香料、BPA、ホルムアルデビドといった肌に悪影響を与える可能性のある物質を排除したもの。昨年に発売開始したAHA25%、BHA2%配合の角質除去パックは、セフォラのオンラインストアでスキンケア部門ベストセラー1位を記録した。また、今年5月に同ブランド初の色付き日焼け止めを発表し、6月中には洗顔ジェルを売り出す予定だ。

流行は追わない。事業拡大も望まない

2016年の年商は前年比600%増の3000万ドル(約33億円)。今年はその倍以上を見込んでいる。その一方で、マスターソンは事業の拡大を望んでおらず、自身が日常的に使うスキンケア用品以外のものを売る気はないという。有料広告も出しておらず、SNSインフルエンサーにお金を払って商品を宣伝してもらうつもりもない。

「他のブランドのことは知りません。セフォラにも行かなくなりました。流行を追いかけることもない。私は自分の生活する場所で、自分がすべきことをするだけです。消費者が最優先です」とマスターソンは語る。

今年2月、ドランクエレファントは著名なファッションブロガーのリアンドラ・メディーンと、サンフランシスコの投資ファンドVMG Partnersから出資を受けた。同社の企業価値のうち、マスターソンの持ち分は約2500万ドル(約28億円)と推定される。

近年、美容系スタートアップを立ち上げた後、大手の化粧品会社に売却する女性起業家が目立つが、マスターソンもその道を視野に入れている。エスティローダーがドランクエレファント買収に関心を示しているとの報道もあった。

ただ、マスターソンは時期尚早だと考えている。「人間にたとえると、会社はティーンエイジャーです。(実家から離れた)大学に行かせるにはまだ早い。会社が最善の道に進むよう、私が導き続ける必要があると思っています」

編集=海田恭子

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