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2017.07.03

文明崩壊を避けるための「未来志向」の危機管理とは

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ダボス会議が今年発表した「グローバルリスク報告書2017」は、「今後の世界経済の発展について重要となるテーマ」を次のような順位で挙げた。

1位:所得向上と貧富の格差
2位:気候変動への対応
3位:社会の両極化
4位:IoT進展によるサイバーへの依存
5位:高齢化社会

また、「相互連関性が強いリスク」の順位はこうだ。

1位:失業・過少雇用と基礎的な社会不安定
2位:大規模な非自発的移民と国家の崩壊・危機
3位:気候変動緩和・適応の失敗と自然資本(とくに水)の危機
4位:ガバナンスの失敗と基礎的な社会不安定
5位:大規模な非自発的移民と地域的事情による国家間紛争

このグローバル・リスク報告書2017を読み終えて、私はふとNASAの研究を思い出した。ここで散りばめられているリスク群が、NASAが挙げた「文明衰退の要因」と重なったのだ。

2014年3月、NASAが資金提供したNational Socio-Environmental Synthesis Centerの研究結果が発表された。過去5000年の歴史を振り返り、人類と自然の力学を解析するモデル(Human and nature dynamics (HANDY))を開発し、文明衰退の要因を抽出した。その要因とは、人口、気象・気候、水、農業、資源(エネルギー)の5つである。

確かに、ローマ帝国、漢文明、メソポタミア文明、マヤ文明、インダス文明など、世界史として私たちが学ぶ文明は、これら5つの根本要因が単発または複数発生し、みな崩壊した。

さらにそのNASA報告書は、現代に対して警告をならしている。これら5つの要因が相互に関連し、資源浪費や(経済的な)貧富の差が発生し、その2つの現象が定常化すると、文明崩壊を加速させるというのだ。

過去の文明崩壊のモデルを踏まえると、現代文明が崩壊するまでの時間はあと数十年と査定している。そして、一度崩壊に向かう力学が発生すると、これは不可逆だという。

過去の文明と現代の文明で圧倒的に異なるのは、その規模だ。

米国圏、EU圏、アジア圏という経済圏の地理的な整理学はあるが、いまや政治、経済、安全保障、食糧、エネルギーなど、グローバルの冠を掲げた様々なシステムが我々の生活基盤を支え、フラットかつスピーディーな社会を情報技術が支えている。

歴史上の文明(都市)は、地理的に限定された場所で崩壊したが、現代はそうもいかない。ある事象をきっかけに全世界へと波及する超相互依存の時代、情報フリーマーケットの時代にある。リーマンショック、東日本大震災、IS、ブレグジット、トランプ大統領登場など、事例を出せば枚挙に暇がない。

世界規模の脅威から生き残るためには、グローバル・バリューチェンから切り離されたシステムを、あえて創る以外にないのだろうか。

先のNASA研究とダボス研究を踏まえると、5つの要素と2つの状態について共通する点が多い。楽観も悲観もなく、このような情報があるということを知って頂きたいと思う。

ただ、私が本稿で申し上げたいことは、このような悲観シナリオではない。

歴史が証明するように、いまの社会の持続性に正義を持つ人、一方、いまの社会の廃絶に正義を持つ人、これらを両立させるのは、極めて難しく、国際機関が笛吹けど、個々の利害が優先されている現状は過去から変わらない。

京都は1000年以上持続しているし、長寿企業も多い。ローマ文明は確かに滅びたが、現在のローマに人は住んでいるではないか。NASA研究から逆説的に私が思うのは、文明を長続きさせる要素は何かということだ。どのような社会に、どのような要素が、どのくらい長く続くことが望ましく、価値があるのか。言うは易しだが、そのような研究も必要ではないか。

危機管理とは“危”と“機”を管理することである。このような未来志向の危機管理も語れるようになりたい。

文=蛭間芳樹

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