ベルコート城は、ロスチャイルド商会のアメリカ代理人として富を築いた銀行家オーガスト・ベルモントの息子で、後に下院議員を務めた富豪オリバー・ベルモントが、フランスで修行した高名な建築家のリチャード・ハントに設計を依頼した邸宅だ。ベルサイユ宮殿をモデルに、320万ドル(現在の約8700万ドル、約97億円)をかけて3年がかりで建設され、1894年に完成した。5200平米の床面積に60の部屋があり、大の馬好きだったベルモントは1階を馬のためのスペースに作り上げた。
しかし、邸宅が完成してまもなく、ベルモントは隣人のアルバ・ヴァンダービルト(鉄道王ヴァンダービルトの孫であるウィリアム・キッサム・ヴァンダービルトの妻)と恋に落ちる。ニューヨーク社交界の有名人で、熱心な婦人参政権活動家としても知られたアルバは、夫と別れてベルモントと再婚し、ベルコート城に転居。二人の恋愛劇はセンセーショナルに報じられた。
ベルコート城に移り住んだアルバは、さっそく改装に着手した。馬は室内から追い出され、1階は書斎とパーティ用の大広間に変わった。2階の円柱に囲まれた空間は、参政権を求める先進的な女性たちの集合所となった。
1億円を投じ伝説の豪邸を修復
ベルモント夫妻の死後しばらく経った1940年、ベルモント一族はベルコートを売却。それ以降、所有者は何度も変わり、屋敷は荒廃の一途をたどった。1999年、裸の男女800人のパーティ会場に使われ、近隣住民の悪評を買ったこともある。
ロードアイランド州出身のラファエリアンは子どもの頃、家族に連れられてニューポートの豪邸巡りをしたことがあるという。それから数十数年後、朽ち果てたベルコート城の内部に足を踏み入れた時のことを、「赤いベルベットで覆われたガラクタ部屋といった様子で、妙な匂いがしていたけれど、私の胸に訴えかけるものがあった。この美しい家に刻まれた歴史や物語を語りたいと思った」と振り返る。
現在、ラファエリアンは100万ドル(約1億1160万円)の改修プロジェクトに取り組んでいる最中だ。これまでに雇ったスタッフは400人以上。工事内容は、海風で傷んだ外装と内装を修復し、アルバの意匠を蘇らせると同時に、屋根にソーラーパネルを取り付けるなど、現代のテクノロジーも取り入れている。
完成は2019年を目指しており、屋内はニューポートの歴史と初代住人の功績、特にラファエリアンが「大きな変化をもたらした人」と呼ぶアルバの活動を伝える博物館になる予定だ。ステンドグラスに彩られた音楽ホールにはパイプオルガンがあり、ニール・ヤングやカーリー・サイモンのコンサートを開くのにぴったりだとラファエリアンは考えている。大規模工事につき、課題は山積みだが、ラファエリアンに焦る気持ちはない。「私には、人や物を美しくすることくらいしか趣味がないんです」